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水面下

何日間かは、朝、黒沼の警護班に入り、事務所に一緒に行き、帰るまで入り口や近くで見張っているだけという勤務になった。 そして毎日、大井戸署の高田には連絡をし、必要があれば夜には大井戸署に顔を出す。宮田が浅井関係の調査の進捗を教えてくれる。 警護班の何人かとは顔見知りになる。 高田に言われたような喧嘩の原因になるようなくせのある人物は今のところ1人もいなかった。誰にも言わないが、北池署や大井戸署に比べると平穏な毎日だった。 数日がたち、夕方になって休憩していた広瀬は、「黒沼が用事があるってさ」と糸井に言われた。「なんで黒沼がお前をよびつけるんだろうな。警護はしてるけど奴の部下でもなんでもないのにな」と言う。糸井は東城の知り合いのせいだろうか、広瀬に親切で気を使ってくれることが多い。 行ってみると黒沼だけでなく班長とサブリーダーもいた。そして黒沼のオフィスで応対した若い男もいる。彼の名前が佐々木だということはこの数日で知った。 黒沼が、「浅井から連絡があった」スマホのメールを見せてくれる。 浅井のメッセージだった。 「浅井に連絡とれって言ってただろう。まだ、海外にいるらしい。戻ってくるのに1週間くらい時間がかかるそうだ。戻ってきたら会おうってことになってる」 広瀬はそのメッセージを記録させてもらう。 「浅井の投資話がかなりこげついている」と黒沼はスマホをポケットにしまいながら言った。「あんたたちもとっくに知ってるんだろうけど、俺が出資している投資が大コケしたらしい。奴は北の方のヤクザやチンピラから金を預かってたらしいから、ケツに火がついてる状態だ。今回の殺しは浅井に関係があるんじゃないのか?」 班長は広瀬に答えないようにと言った。「捜査情報はお教えできません」 黒沼は顔を上にむけて、長身の班長を見る。「おいおい、そんなきれいごと言ってる場合かよ。脅迫されて殺されるかもしれないのは俺だぜ」 「黒沼さんの安全は我々が守っています」と班長は答える。「必要があると判断したら、浅井にはこちらで事情を聞きます」 黒沼は班長に言う。「殺されるのは俺だからな。そう悠長にかまえていられない。浅井はこんなメールよこしやがって、俺を呼び出して殺すつもりなんじゃないかと思ってるんだ。逆手にとってどこかで会って、あんたたちが浅井を捕まえればいいんじゃないか?」 「黒沼さんは我々が警護しています。捜査については我々におまかせください」と班長は穏やかに、きっぱりと言った。 黒沼は不満そうだった。 広瀬はその日の夜、黒沼に電話をした。5度ほどコールした後で黒沼は電話にでた。「誰だ?」と聞かれる。 広瀬は名乗った。 黒沼は驚いたようだ。「広瀬さん、か。こんな夜にどうしたんだ?さびしくて俺と話しをしたくなってかけてきたのかよ。うれしいなあ」と喉の奥で笑う。 広瀬はやりすごした。「今日の話ですが、こちらでは黒沼さんをサポートする準備があります」 「なんだ?今日の話?」 「浅井に会う話です」 「それは断られたじゃないか」 「あなたの身辺警護としては難しいですが、それ以外の立場での申し出です」 「なるほどな。あんたたちも立場で色々あるわけだ。で、どうしてくれるんだ?」 「あなたの意思を確認できたら、浅井と会う際の段取りを検討します。あなたの安全は保ちますが、浅井に事情を聞きたいのでその機会を設けていただきたい」 「俺に異存はないぜ」と黒沼は答えた。 何点か確認をし、簡単に今後の段取りをきめた。「また、連絡します」広瀬は電話を切った。 広瀬は横で電話をきいていた高田をみた。高田は上司に話をしにいき、広瀬はしばらく待たされた。 「これから、警護班と連絡して協調する。黒沼には、しばらくまてと伝えろ。浅井からの連絡は逐一教えてもらえ。そもそも浅井が海外にいるのかどうかから、確認をとる」と戻ってきた高田は言った。

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