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 学校帰りに突然声をかけられた。 「谷村君」  一瞬誰を呼んでるかわからなくて、振り向くのが遅れた。元の名字は#安原__やすはら__#だったから、谷村は茄治の家のものだ。  見たことある女子だった。名前は知らないけど、クラスメイト。 「家こっちなの?」 「あ、うん」  何の用事だろうと思った。  朝雨が降ってたから自転車で行けなくて、今日は歩きだった。今は止んでいるけど。 「目、きれいだね」  何を言われたのかわからなかった。俺の目がきれいとかはじめて言われたから。  「あ、何でもないの」  頬を赤く染める。女の子だなと思った。茄治もやっぱりこういう子がいいのかななんて考える。 「兄さん」  って声がして驚いた。家の近くだったから、ちょうど茄治も帰ってきた所だったのかもしれない。 「あ、私行くね」  と名前も知らない女子が帰っていった。 「誰?」 「クラスメイト。多分」  よく知らないけど。 「目きれいとか言われてなかった?」  茄治が俺の目を覗き込むように言った。驚いて言い訳みたいに言ってしまった。 「ただの勘違いだって」 「色目使ってんじゃない?」 「使うわけないだろ」  そもそも少し女子が苦手だった。 「眼鏡したら?」  とかそんな風に言われた。 「さっきの女子みたいに勘違いする馬鹿がいるから」  ひどい言い草だとは思ったけど、どうでもいい。 「茄治が言うなら」  その後一緒に眼鏡を買いに行った。  別に目は悪くなかったけど。  銀縁のオタクがするようなダサい眼鏡だったけど、それが一番安かった。  茄治が選んでくれた眼鏡だからそれにしたのに、つけたら 「似合わねえ」  とか言う。  わざと変なのを選んだのかもしれない。  女子に声かけられたいわけじゃないから別にいい。茄治以外誰も興味ないから、学校の奴にどう思われようとどうだって良かった。

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