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 俺をあずかってくれるのは、高校を卒業するまでの約束だった。  茄治の親は元々嫌々引き取ってくれただけだから。  洗面所に向かおうと階段を降りたら話し声が聞こえた。誰も俺が降りたのに気付いていない。 「後もう少しで茄治に部屋も開けてあげられる」  と母親の声。 「ほんとうちに押しつけやがって」  父親の声も聞こえた。  俺は厄介者だから、何言われても仕方ない。 「そうだね」  それに同意するように言う茄治の声。そんなこと最初からわかってた。 「茄治、心置きなく学校にも通えるわ。学校で兄弟だからって噂されてない?」 「ん。大丈夫」 「籍も抜けるから、大丈夫よ」 「え? 何? あいつ谷村じゃなくなるの?」 「そうよ。もう関係ない他人になるのよ」 「それは良かった」  聞き間違いかと思った。茄治がそんなこと言うなんて。  最初からここの親と一緒で俺を蔑んでいたなんて。  そんなの当たり前だ。俺が勝手に幻想を抱いていただけ。茄治はもしかしたら違うかもって。ちょっとだけ期待した。  そんなのは夢のまた夢だったんだ。

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