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 卒業式が終わった日の夜、用意は全て済ませていた。  もう茄治と会うこともないんだと思ったら泣きそうになった。  寝ようとしても眠れない。  一度水でも飲もうかとベッドから降りたら茄治に腕を掴まれた。 「何でそんなに避けてんの?」 「そんなんじゃ」 「ねえ兄さん」  茄治の射貫くような瞳にぞっとした。  無理矢理唇を奪われた。 「俺に飽きたの?」  違う。 「それとも浮気?」  そんなことあるわけない。 「兄さんは俺のもんなんだから」  茄治?  そんな目で見つめられたら我慢なんかできそうにない。  たってしまったから。久しぶり過ぎて頭がおかしくなりそうだ。  最後だからと言い訳をして、茄治に抱かれた。 「なんかちょっと違うね」 「茄治」 「久しぶりだから?」  もう最後なんだ。俺は明日出て行く。 「茄」  呼ぼうとした唇を塞がれた。  いつものように強引じゃなく、優しく触れてくる茄治が痛くて、心が苦しい。どうしてもおさえきれない衝動をごまかすために言った。 「名前で呼んで」  最後だからわがまま言ってもいいよね? 「兄さん?」 「お願い」 「桔梗(ききょう)」  それだけでとろけそうだ。 「なんかやばい」  自分の名前が嫌いだった。女々しくて、母親のにおいがして。でも、茄治が呼んだら別のものになる。 「生で入れて」 「わがまま」  そう言いながら入れてくれた。もうたまらない。  じっくり茄治のものを味わいたい。ゴムの隔たりもない体の中でうごめく熱さをめいっぱい受け止めた。  もう何もいらない。ずっとこうしていたい。つながっている時だけ、1つになれるから。  ねえ、茄治。俺のこと忘れないで。 「茄、治」 「何泣いてんの?」  そんなこと自分では気付いてなかった。 「気持ち良すぎて」  口に出しては言えないけど、俺を抱いてくれてありがとう。  結局一睡もできなかった。涙が次々と溢れて止まらない。  茄治が眠ったのを確認し、明け方にそっと部屋を抜け出た。茄治は目ざといから。早くしないと気付かれてしまう。  家の前でそっとため息をついた。  茄治、ごめん。ありがとう。  新しい家と新しい仕事。早く慣れないといけない。  茄治の両親には今日出ることを伝えていた。賃貸契約の保証人のサインももらった。  茄治には何も言わなかった。行き先も教えていない。

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