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俺がゲイだって浸透してきていて、あまり女から呼ばれなくなった。
何故かその日は違った。
指名が女の人だと同僚に言われ、しかも大分年上のと。
何でそんな人がと思って席に行ってみる。
全く予想していなかった。
「母さん?」
何でここに。どうやってわかったんだ?
「あんた元気?」
俺を置いていったくせに。
「ホスト? 血は争えないのね」
違う。そんな風に言わないでほしい。
「良かった。元気な顔見て安心した」
そんなことを言って、馬鹿みたいに高い酒を頼んで、俺にお金を落とそうとする。
そんなことして欲しくない。
「だって何で今更」
「桔梗」
その名前嫌いなんだ。
「訳は言えないけど、今はやっと落ち着いたから」
言ってる意味がわからなかった。
「何かあったらここに」
名刺を渡された。こんなのいらない。でも、突き返すこともできなかった。
「そういえば、お金残してたんだけど」
「そんなの知らない」
「通帳なかったかしら?」
引っ越すときに家の中のものなんて確認しなかった。茄治の親か誰かが勝手にやったから。家具以外私物は全部届けてくれたはずだけど、そんなもの見た覚えはない。
「通帳?」
「ま、いいわ。今度手続きしとく。きっとまだ残ってるから」
何のことだかわからない。
こっそりお札を3枚渡される。そんなのいらないのに。
「元気で」
あっけなく母さんは行ってしまう。
何か言うことがあった気がするのに、言葉にならなかった。
その日茄治は来なかった。
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