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ごくたまに荷物や新聞の勧誘が来るくらいでめったに鳴らないインターホンが鳴った。午前中でまだ寝ていたのに。
茄治だったら呼び鈴鳴らさないよな。鍵持ってるし。
安いアパートだから、映像とか映らなくて、直接出るしかない。
着替えたりもたもたしているともう一度鳴った。
出てみたら、茄治の両親だった。言葉を失う。
「やっぱりそうだったのね」
やっぱり? どういうことかと思った。
「茄治が来ただろ」
何でそんなことを知ってるのか。茄治が言ったのか。
「もうあなたと縁を切ったのに、いつまで茄治につきまとうつもり」
つきまとってなんかいない。
「お金欲しいんだろ」
父親の方が俺に封筒を渡してくる。一体なんだ?
「いりません」
床に向かって投げつけた。
「帰ってください」
「こっちが下手に出れば」
胸倉を掴んでくる茄治の父親を無感動で見下ろす。
「うちの息子はお前なんかと関わってる暇はないんだ」
そんなの知らない。
「茄治を返して」
母親が泣き出して、俺はその場で固まった。
返すも何も別に俺のものじゃない。
「帰ってください」
俺は2人を追い出して鍵を閉めたけれど、苦いものが口からこみ上げてきた。
茄治、一体何やってんだよ。やっぱりちゃんと問いただせばよかった。
その日の夜、また茄治が来たので、俺は驚いたんだ。親に黙って、抜け出してきたんじゃないかと思ったから。
「今日は帰れよ」
「何それ」
「親が心配してるだろ」
つい口をついて出たら、茄治にはわかってしまった。
「何、まさか来たの?」
「茄治」
「俺のこと追い出したかったの?」
「違っ」
ただ、俺とは住む世界が違うんだって言おうとした。言えなかったけど。
「兄さんもそういうこと言うの?」
「茄治」
「最悪」
そこにあったクッションを俺に投げつけて、出て行った。
追いかけないといけないのに。
「茄治を返して」
母親の泣いた顔を思い出し、足がすくんだ。
駄目なんだ。あいつには将来があって、大学行って、ちゃんと生活していかないと。
俺とは違うんだ。駄目なんだよ。
俺に追いかける資格なんてないんだ。
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