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20ー1

 茄治が来なくなって1週間。家に行くか行かないか。どうしようかずっと迷ってた。  資格なんてないけど、茄治が心配だった。両親と喧嘩でもしたんじゃないかって。  その日茄治は、家じゃなくて何故か店の前で待ってた。 「茄治?」 「家行ってもいい?」  そんなこと聞く茄治はおかしい。 「いつから待ってた?」 「1時間くらい?」  12月に入ってコート一つで待ってたなんて。  茄治の体を抱きしめると、すごく冷たかった。 「兄さん?」 「風邪引く」  ここまでされたら、帰れなんて言えない。 「家来いよ」 「帰れって言わないの?」  俺は黙って家に引っ張ってった。 「風呂わかすから」 「うん」  なんかちょっと様子が違うから、心配になった。 「何かあった?」 「あいつらお金持ってきた?」 「返したよ」 「それ聞いてうれしかった」  そう言って茄治はキスをする。唇も冷たかった。  俺の部屋に戻ったら、茄治が言い出した。 「親と喧嘩した」 「茄治」 「あいつら最低なんだ」  茄治は苦虫をかみつぶしたような表情をした。 「金もらってたんだよ」 「金?」  もしかして母さんが言ってた通帳のことかと思ったけど、違った。 「養子取ると手当もらえるんだ。それで兄さんを引き取ったんだ」 「へえ」  何とも思わなかったけど。 「どうでもよさそう」 「だって、そんなもんだと思ったし」  それに一番は茄治に会えたから。 「それで喧嘩したの?」 「兄さんに会うなって言われたから」 「俺にも返してって言ってきたけど」  茄治の母親の泣き顔がちらつく。 「兄さん」 「俺のもんじゃないのに」 「兄さんのものにして欲しい」 「駄目だって」 「ここに住みたい」  そういうわけにはいかないだろ。そう思うのに、言えない。俺もそうして欲しかったから。 「学校行きたくない」 「茄治」 「高校出たら働こうかな」  そんなこと安易に決めたら駄目だろ。 「もうちょっと考えろって」 「何でそういうこと言うの?」 「茄治は俺とは違うんだよ」 「違わないよ」 「勉強できるし、スポーツだって」 「この程度いくらでもいるって」 「茄治!」  そんなことない。 「ここに来るの迷惑?」 「違うって」  これ以上茄治を振り回したらいけないんだ。 「兄さん」  どうすればいいのか、ずっと考えてた。 「とにかく風呂入れって」 「うん」  俺も一緒にって言われたけど、戸惑う。  茄治を家に帰さなきゃいけない。でも、それで本当にいいのか?  ここまでして待ってたのに。 「もうちょっとしたら入るから、先入ってて」  ととりあえず言った。

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