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 通帳のことが気になった。もし茄治の親が持っていたとしたら?  それはさすがに養子手当とは次元が違う。窃盗だろ。  聞いてみるべきか。  きっと俺だから気に入らないのだとはわかっていた。  朝帰りさせるのはよくない。  茄治のために俺ができることと言ったら?  何かあった時のためにと茄治の家の電話番号は知っていた。  あまり気は進まないけど、かけてみるか。 「どうも、安原です」 「貴様、茄治いるんだろ?」  父親の方だった。やっぱりなと思う。 「いますけど、その話ではないです」 「さっさと帰せ」 「茄治が帰りたくないようなので」 「ふざけるな。茄治を出せ」  きれられたけど、気にしてる場合じゃない。 「それよりもお聞きしたいことがあるのですが」 「なんだって?」 「俺の通帳って荷物の中にありませんでしたか?」 「通帳? なんのことだ?」 「いえ、知らないならいいんですけど」  それ以上話したくないみたいに話題を変えられた。 「そんなことよりさっさと茄治を帰せ」  そんなこと? いい加減カチンときた。 「お言葉ですけど、俺を引き取ることで、お金もらってたんじゃないですか?」 「は? 茄治から聞いたのか?」  答えなかったが、わかったらしい。 「お前なんかをあずかってやったんだ。それぐらい」 「別にいいですけど、だったらおあいこですよね」 「何言ってんだ」 「今日は泊まらせます。明日そっちにうかがいますから」 「貴様」 「茄治の学校の後に。あけておいてくださいね。失礼します」  ふざけんなと言ってしまいそうになった。冷静に対応しようと思ったけど、つい怒りがこみ上げてきてしまった。  ずっと自分を引き取ってくれたからと遠慮していた。嫌々でも、恩があるからって。  なのに、聞く耳も持たない。あげくの果て手当だって当然かのごとく言う。家事だってやってたのに。  この家の家賃だって自分で払ってるのに。1円も出してないじゃないか。  そう思ったら、もっとむかむかしてくる。  高校時代稼いでいたから、今は少し生活に余裕があるけれど、それは自分で得たものだ。  茄治といる時間を犠牲にして。それはちょっと違うか。  でも、やっぱり気に入らない。

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