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 家の中には父親がいた。わざわざ仕事を休んでくれたのだろうか。  住んでいる間はあまり使うことがなかったリビングに入った。 「どうも、お久しぶりです」 「貴様」  と父親が俺に向かって言ったら、茄治が父親を睨んだ。 「茄治、ここんとこほっつき歩いて」  と言った父親に間髪入れずに茄治は言った。 「うるさいな」  ただ怒るだけでは何も解決しないと思い、俺は口を挟んだ。 「茄治、ちょっと黙って」 「兄さん?」  茄治に驚いた目で見られたけど、俺は続けた。 「無理をさせたこと、振り回したこと、まずは謝ります。申し訳ありません」 「何を」 「兄さんが謝ること」  と茄治が言っても無視して続ける。 「でも、縛り付けるのはやめてあげて欲しいんです。茄治だってわかってると思います。これから、受験とか大事なことがあるのを。俺が黙って出て行ったので、心配してくれただけなので」  本当はそれだけじゃないけど、全部言う必要はない。 「ちゃんと勉強はさせますし、塾にも行かせます。だから、週に1回だけ時間をいただけませんか? 俺と過ごす時間を」 「何を馬鹿なこと」 「日曜日だけ時間をください」 「ふざけるな」  怒られようと曲げる気はなかった。 「息抜きも必要だと思うんですよ。俺がここにお世話になったのも何かの縁だと思うので、協力させて欲しいんです」 「何が協力だ? 終電で帰ったり朝帰りさせることが協力か?」 「それは本当に悪かったと思っています。きちんと言い聞かせなかった俺の責任です」 「兄さん!」  茄治はきっと自分のせいだと言うのだろうけど、違うんだ。俺のわがままなんだよ。 「あなたたちがいくら怒鳴っても、無理矢理言うことを聞かせようとしても、茄治は聞かないでしょう? それでは意味がないと思いませんか?」  たたみかけるように言う。 「親子関係って信頼だと思うんですよ。茄治は俺の所に来ることで裏切ったかもしれないですけど、それを頭ごなしに怒ったのではないですか? 理由も聞かず」  何か口を挟ませる気はなかった。自分のペースに巻き込みたかったから。 「高校生のうちはちゃんと家の決まりも守る必要があると思います。あまりにもがんじがらめなのはよくないですが、常識の範囲内で」  ここで話題を変えた。 「俺を引き取ってくれたのは感謝してますけど、同時に自由はなかったんですよ。今の方が自分を食わせればいいだけだから自由だ。別に家事とかは居候なので当然とは思ってましたが、それでお金も奪う権利があるんですか?」 「手当のことなら」 「手当のことはもういいです。俺の食費、家賃代わりにしてください。ただ、母からもらったお金は返してください」 「何だそれは」 「通帳ありましたよね? カードはあるかわかりませんけど、母のお金をあなた方が勝手に使う権利はないと思うのですが」  父親ははじめて動揺した顔をした。 「あ、あれは1円も下ろしてない」 「そうですか。じゃあ、通帳返していただけませんか?」 「わ、わかった」  父親はこの場を出て行った。

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