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「兄さん?」
俺は茄治にウィンクした。
何でそこでキスしてくるのか理解に苦しむ。
「ちょっ、茄治」
「その顔かわいい」
またそういうことを言う。今はそんな場合じゃないのに。
「ゴホン」
父親が戻ってきて、切り替えるために軽く咳払いをした。
「これだ」
渡された通帳は、俺の名前が書いてあった。母さんの名前じゃなくて。
「ありがとうございます」
これでチャラにしようと思った。
「茄治にも週1回自由を」
「それとこれとは別だ」
「週1回勉強しない日があるだけで、受からない大学なら、元々無理なんじゃないですか?」
「ぬっ」
そこで茄治が口を挟んだ。
「父さん、東大ぐらい軽く受かってやるから」
「茄治」
「俺が言いたいこと兄さんが全部言ってくれたから」
父親は大げさにため息をついた。
「成績落としたら承知しないからな」
「当たり前じゃん」
茄治の家を出たら緊張が解け、ちょっと体がふらついた。
「兄さん、大丈夫?」
「今日は駄目だから」
「わかってるって。ちょっとだけ」
茄治は話があるみたいだった。
「そういえば、お母さんは?」
「今日は仕事」
茄治はため息をついた。
「うれしかったっていうか、兄さんがまともに説得できると思ってなかった」
それはそれでなんかむかつく。
「膨れないでよ」
「膨れてない」
「褒めてるのに」
仕方なくため息をつく。
「ありがとう」
キスをされて、抱きしめられた。
「ちょっと」
こんなところでやめろって。むらむらしてくるだろ。
茄治は俺のそんな状態を知ってか知らずか、笑顔で言った。
「また来週」
「1週間もたないかも」
とつい口に出してしまった。
「兄さん」
「冗談。じゃあな」
「俺もだよ」
と言って、キスして去って行った。
はああ。スマートなかっこよさにくらくらしそうだ。
帰るか。
家に帰って抜いたのは言わずもがなだった。
茄治もそうなのかなとか思ったりもする。
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