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俺はこの前母さんにもらった名刺を眺めていた。
笠川 法律事務所と書かれていた名刺。母さんはここで働いているのだろうか。それとも誰かと結婚とかしていたり。
いや、それはない。
「事務 安原菖蒲 」と書いてある。今までの名字だ。
どうして自宅でなくて事務所の名刺なのかが気になった。
茄治を誘って行こうと思った。貴重な日曜日の時間を使ってしまうけど。
母さんと1人で会うのが怖かった。余計なことまで言ってしまいそうで。
事務所に顔を出すのは俺一人にした。茄治がいると説明がややこしくなるから。
日曜日だから最悪の場合やっていないかもしれないと思いながら店に入ろうとすると、中は薄暗いのに自動ドアは開いた。と同時にコンビニのようなメロディが流れた。それで誰か入ってきたらわかるのだろう。
すぐに誰かが近付いてきた。
「菖蒲さん……じゃないね」
五十代くらいの男性が俺を見て言った。母の名前を口にした。
「これ、もらったんで」
と名刺を見せた。
「もしかして、桔梗君?」
俺は頷いた。俺の名前を知っているってことは、やっぱり母さんと何かあるのかもしれない。
事務所の応接室に通された。
「菖蒲さんすぐ帰って来ると思うから」
と、お茶を出された。
「あの、母は」
この人とどんな関係なのか、色々聞きたいことはあった。でも、口にできなくて。
そしたら、メロディが鳴って誰か入ってきたのがわかった。予想通り母さんだった。
「あら、桔梗?」
母さんは驚きながら微笑んだ。
「母さん」
「今日は休み?」
「うん」
母さんは男性の方を向いて言った。
「すみません、ちょっと出てきます」
「あ、いいよ。休みなのに出てもらったから。ゆっくり過ごして」
そんな風に男性は言って、母さんは俺と一緒に事務所を出た。
「ちょっと待って」
と言って、茄治が待ってるとこに連れて行く。
「あ、引き取ってくれた先の弟」
「どうもはじめまして。谷村茄治です」
茄治が敬語で話すのをはじめて聞いた。
歩きながら話すのもあれだからと、3人で喫茶店に移動した。
途中で小声で聞いてきたけど。
「ついてきて良かったの?」
「いいって言ったじゃん」
母と二人だと緊張する。だから茄治にいてもらいたかったんだ。
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