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 喫茶店で一通り注文した後、母さんは言った。 「その谷村さんのところに今もお世話になってるのかしら?」 「今は茄治の家を出て1人」 「俺に黙って勝手に出て行ったもんね」  何でここでそんなこと言い出すんだ? もしかして茄治は根に持ってるんじゃないか。 「あらどういうこと?」  母さんはちょっと笑いながら聞いてきた。 「いや、そのだから。ちゃんと茄治の両親には説明して。元々高校卒業までって約束だったし」  何でこんなことわざわざ言わなきゃいけないのかと思った。 「うちの親はあんましだから、出て良かったとは思うけど。兄さんはすぐ遠慮するから」 「そうね」  そこで何故か母さんは同意する。何? 何でそんな話に。 「桔梗は昔から言いたいことあまり言わないのよね」  そんなこと言われたって。  母さんに見透かされているのが気に入らなくて、一番聞きたかったことを聞いた。 「じゃあ何で出てったの?」  聞くのが怖くて今まで聞けなかったから。 「この前聞かれなかったから、興味ないのかと思ったわ」  母さんはちょっと顔を歪めて言った。 「黙って勝手に出て行って、悪かったと思ってるわ。どうしても、あそこにいられなくて。居場所割れてしまったから」 「え?」 「店の客でね、ストーカーみたいな奴がいたのよ。断っても、毎日のように店に現れて、あげく私の家にまで」 「母さん?」  俺そんなこと全く知らなかった。 「このままじゃあなたにも被害がいくと思ったら怖くて。だから家を出たの。子供がいるなんてわかったら何してくるかわからなかったから。店もすぐやめて、色々な所を転々として」 「最近やっと落ち着いたの。警察はしばらく取り合ってくれなかったんだけど、余罪が見つかって捕まったわ。それに、さっきの笠川さんもいてくれるから」  そんなこと全然知らなくて、ただ捨てられたのかと思ってたから。 「そんなの、もっと早く話してくれたら」  疑ってたのに。男と出て行ったんじゃないかって。 「もっと早く会いに行きたかったんだけど、また現れるんじゃないかって怖くて。それに、桔梗は私に会いたくないんじゃないかと思ったのよね」  そんなこと……。俺が勝手に誤解して、母さんを蔑んでた。 「俺、勝手に誤解して、ごめんなさい」 「謝ることなんかないわ。私の方が謝らなきゃいけないのに」  母さんは目を伏せた。

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