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「兄さんは自分のこと卑下し過ぎだから」 「うるさい」  そんなこと言われたって、自分には何の取り柄もないし、褒められるのはいつも顔だけ。 「料理だってうまいじゃん」  俺のそんな感情を見透かしたように茄治が言った。 「本当に良かったわ。元気そうで」  母さんは涙ぐむようにハンカチで目を拭いていた。俺はなんて言ったらいいかわからなかった。 「話してくれてありがとう」  聞かなかったら誤解したままだったから。本当のことがわかって、母さんは俺を捨てたわけじゃないと知れてうれしかった。 「桔梗」  母さんは向かい合って座っていた席から立って、俺を抱きしめてくれた。俺も泣きそうになる。  見えなかったけど、茄治が笑った気がした。 「あ、そうだ母さん。これ見つかった」  この前茄治の父親から返してもらった通帳を渡した。 「あらそう。中身大丈夫だった?」 「確認してない」  母さんは通帳の中身をペラペラとめくる。 「本当は大学にも行かせてあげたかったんだけど、タイミングが合わなかったわ」  ストーカーみたいな人に困っていたようだから仕方ないと思う。 「別にいいって。勉強とかあんまり得意じゃないし」  大学に行ったってやりたいことがあるわけじゃない。 「家賃とか大丈夫? お金に困ったら、この中身自由に使っていいから」 「いくら入ってるの?」 「1000万くらい」  え? そんなに? 「2、3年生活するくらいならね。一生暮らせるようなものではないけど」 「十分というか、別に使い道ないよ」  返そうと思ったら、母さんは首を振った。 「そもそもカードないとおろせないでしょ。危険だと思って捨てちゃったのよ。今度再発行しようと思って。印鑑はあったから、ちょうど良かったわ」  母さんは手続きしてくれるみたいだ。 「でも俺いらないって」 「ホストは続けるの?」  聞かれて少し迷った。それくらいしかできることがないからやっていただけで、特にホストが好きなわけじゃない。 「わかんない。けど今のところは」 「じゃあ、必要になるまで私があずかっておくわ。あ、住所教えとくわね。いつでも来ていいから」  母さんの住所と電話番号が書かれた紙をもらった。 「本当は一緒に暮らそうかと思ったんだけどね」  母さんはふふふと笑う。 「桔梗は別の方がいいみたいね」  え? どういう意味かと思って母さんの方をじっと見ると、俺と茄治を交互に見てきた。 「本当の兄弟みたいに仲いいのね」  そんなことを言う。何だか釈然としない。 「また、いつでも遊びに来て。今度笠川さんも紹介したいし。茄治君と一緒でもいいわよ」  母さんは席を立って伝票を手に取る。 「払っとくから」  俺だって働いてるからいいのにと思ったけど、母さんはそそくさと払いに行った。  俺たちもその後に続いて店の外に出た。

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