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エピローグ
茄治は日本最高峰の大学に受かって、そのおかげか自由を手に入れた。
俺と暮らすと言ったら両親は渋々認めてくれたらしい。一人で暮らすよりは安全だから。
本当に安全かどうかはかなり疑問だったけど。どっちかというと危険のような気もする。別の意味で。
ワンルームじゃさすがに狭いから、引っ越すことになった。
茄治の大学の近くに。
帰りが遅くなっても迎えに行けるし、朝もゆっくり出られる。
俺の職場は少しだけ遠くなったけど、いずれやめるつもりだから別にいい。
母さんがくれたお金の使い道を考えたんだ。考えて、専門学校に通うことにした。仕事は少し減らして、無理がないように。
取り寄せた資料を眺めていたら、茄治が聞いてきた。
「専門学校? 何これ」
「勉強しようと思って」
「兄さんが?」
どうせ俺は茄治ほど頭は良くない。そう思って少しむくれていると、茄治は言った。
「冗談。冗談」
「やりたいこと、見つけたんだ」
「やりたいこと?」
「茄治が褒めてくれたから、調理師免許取ろうと思って」
料理なんて誰でもできると思ったけど、やってみようと思ったんだ。
「え?」
「そんで今バイト先でもお酒の勉強してる」
「お酒?」
「料理がメインとかだとさ、俺程度の腕じゃどうにもならないから」
ソムリエの資格も取って、お酒のつまみ程度に料理を出すようなお店を。
「バーでもやろうかなって」
「バー?」
自分で何か始めてみたいと初めて思った。
「まあ、でも、流行りそうだね」
「へ?」
「兄さん顔いいから」
褒められてもなんか気に入らない。
「顔だけ?」
「そういう意味じゃなくてさ。男に誘われたりするんじゃないの?」
「しないって」
茄治はまたそういうことを言う。そういうお店じゃない。ただ静かにお酒が飲める店をやりたいんだ。
「名前も決めたんだ」
「名前?」
「パープル」
「何それだっさ」
茄治がいつものようにからかうから、理由を言いたくなくなった。
「桔梗の花の色?」
「それだけじゃないけど」
笑われて、やっぱり面白くない。
「すねないでよ。兄さん」
「茄治の茄ってナスの茄じゃん。だから、こじつけかもしれないけど」
「え?」
茄治は少し照れたように言った。
「いい名前だと思うよ」
「手の平返し」
「もう、兄さん」
ださいとか言ったくせに。
「今の仕事やめるの?」
「まあいずれ。しばらくは続けないと無職になっちゃうし」
「俺もバイトするけど」
「茄治はちゃんと勉強しなよ。頭いいんだから」
「別にバイトしたぐらいで単位落とさないって」
そういう話じゃないんだけど。
茄治は俺と違って何にでもなれるんだし。いや、違う。
俺にだってできることがあると知った。茄治は茄治。俺は俺で。
「ちゃんと学業優先させるならいいけど。別にお金は大学卒業後に稼いでくれればいいから」
もし足りなくなっても、母さんが残してくれたお金があるし、なんとかなるだろう。
「大丈夫。大丈夫」
「茄治!」
「先のことより、今何したいか言って」
茄治と暮らすようになって増えたSM道具を見ながら言う。
「茄治の好きにしたら」
「じゃあ、これ」
茄治が取り出したのは緊縛用の縄だった。
茄治、すごい縛るのうまくなったんだよなと思いながら。
「兄さんはいっつもやらしい」
「茄治」
「すぐたつし」
「んっ」
舌を絡めるキスをしながらいつものように優しく、時に激しく犯される。
そんな変わらない毎日。
完
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