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チケットが二枚あって、誘った相手から断られたのは本当だった。ただ二枚買う時に、断られたら君に声をかけようと頭の片隅で考えていた。 誘った相手は、付き合って一年になる若い子で、二人で東京に滞在する予定の二日目の夜がライブだった。 その時間は友達と会ってもいいかな、と断られて、もちろんいいよと答えると、 「そしたら、英司は誰と行く?」 と聞かれる。 「そうだな。声かけてみて誰もいなければ、一人で」 「言っとくけど、デート禁止な。誰と行くか俺に言うこと」 「君と行くつもりだったんだよ」 「わるいけど、本当にそういう場所は無理」 彼の言う「そういう場所」の定義はまだ把握しきれない。革靴で行くような場所には行きたくない、と言われていたが、スニーカーで構わないのにレストランやデパートの海外ブランドのフロアから何度か逃げられていた。 電話に出た君は、俺がバンド名と日時を告げると考える様子だった。 「九時には全部終わるよ。キシにそう言いな、デートじゃないって」 君は小さく笑う。 「俺も、今一緒にいる子に言ってくから」 「ふうん。何て言うの?」 離婚したことは話していないが、何も聞かないのは君らしかった。 「友達と行ってくるって」 「まあそうだが。それもどうなの」 「だめか」 「ずるくない?」 機嫌の良さそうな声を聞くと、たまにしか見せなかった屈託のない笑顔が思い浮かぶ。 ライブには一度行ってみたかったので、お言葉に甘えてご一緒してもいいですか、と君は翌日メッセージを寄越した。詳細を送る時に、キシはなんて?と書いたが、返事はなかった。 ある歌のイントロが流れると、君は驚いた顔で俺に囁きかける。 「これ聴けるんだ、やった」 「これやると思わなかった。好き?」 「好き、大好き。これいちばん好きかも」 「いい歌だよね」 知り合ったばかりの頃、部屋の中を見るかぎり本を読むようでもなく、音楽も聴かないと言われたので、何が好きなのかと尋ねた。 FAQだったらしく、セックス、とすぐに答えが返ってきた。 「嘘つけ、そんなに好きじゃないだろう」 「えっ、どうして?」 不意を突かれた表情は、可愛らしかった。 「好きなら、もっとずっといいものなんだけど。君、怖がりだからな」 「どういう意味?」 「さあね。また会えたら、もっといいことしてみる?」 曖昧な表情を浮かべた君は、うん、とどっちつかずの返事をしたっけ。

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