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運命なのかは後にして③
なんだか気まずくて、俺は会社近くのビジネスホテルに泊まることにした。一応、土師 にはこれ以上世話になる訳にはいからないとメールはしておいた。
土師がいい奴だと思う。だが、それとこれとは別であって、恋愛云々となるとやはり違うと思ったからだ。
土師もああ言ってたけど、どこまで本気か分からんしな……
「……ま、いいっか」
俺は、ドアを開け部屋に入った。シングルベッドにテレビ、ユニットバス、後は備品的なものが揃っている。取り敢えずエアコンのスイッチを入れ、クリーニング店で受け取ったスーツを壁のフックに掛けた。特に見たいテレビがある訳でもないのに、リモコンを手に取ってボタンを押した。無造作に置いたコンビニ袋からおにぎりを掴んで封を切って一口食べた。
土師が作った飯の方が断然美味かったなってなに思い出してんだ俺は……
普段感じなかったコンビニのおにぎりが、なんだか味気なく感じた。
この一週間、土師宅であいつが飯を作り二人で食事して、後片付けは俺がやっていた。
元恋人とは、生活パターンが違うかったし、一緒に食事したのなんて初めの内だった気がする。由真は、ああいう何気ない日常をしたかったんだろうか。俺にはよく分からない。
両親共に俺には無関心で、結局二人は上手くいかず、俺が小学三年の頃に父に引き取られ一緒に暮らしていた。だか、父は仕事人間で帰ってくるのは夜遅く、毎晩俺は一人で食事をしていた。それが当たり前だったんだ。寂しいとか、味気ないとか感じた事がなかった。
恋人と呼べる人が出来ても、一人暮らしが長かっ俺が料理する方だったし、土師みたいなタイプは初めてで……
いや、待て、あいつはそれ以前に男だって、なんで恋愛対象枠で考えてんだ
突然、スマホが鳴り驚いた俺は、持っていたおにぎりを落としそうになった。その画面を見ると土師と表示されていた。一瞬、躊躇ったがスマホの画面を押した。
「土師? どうした? なんかあったのか?」
少し間があって、ちょっとかすれ気味の声が聞こえた。「……中條先輩」
「どうした?」
「……そんなの気にしなくていいのにもっと居てくれて良かったのに」
「いや、それは流石にまずいって部下に世話になってるとか有り得んだろう」
「……考えとくって言ったじゃないですか」
また声が掠れてる……まさか泣いてるのか?
いや、まさかな……
「いや、それは」
「嘘だったんですね。俺と一緒にいて嫌だった? 気持ち悪いと思った?」
「ああいうのは嫌だって何回も言っただろう」
「じゃ、なんで一週間も俺と一緒に居た? 嫌なら出ていけばいいのに。嫌ならもっと拒絶してくれないと、分かんないから」
「じゃなくて会社ではその嫌ってゆーかじゃなくて……」
おまえと一緒にいると居心地が良かったんだよ……いや違う、きっと土師が気遣ってくれていたからだ。
「ごめん…土師」
「謝らないで下さい。先輩…分かりました」
「……うん」
「夜遅くにすみませんでした。お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ」
通話が切れる前、土師が鼻を啜った音が聞こえた。
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