6 / 51

運命なのかは後にして⑤

はぁ……やっと終わった…… 俺は、三件目の得意先からタクシーに乗った。もうすっかり外は暗くなっていて、朝より冷え込みがキツくなっていた。 コートのポケットでスマホが振動していのに気付き画面を見た。 「はい、中條(なかじょう)です」  なんだか騒がしいな…… 『……ああ、中條? そっちはもう終わりか?』 「はい、このまま直帰しようかと」 『じゃおまえも来いよ。土師の初リーダー今日で納期終了だからさぁ皆で飲みに行こうかってなってな〜〜おまえも褒めてやれ!』 騒がしいと思ったら、島野(しまの)部長これは酔ってるな…… 「今から行きます…いつものとこですね」 最寄り駅までタクシーで、そこから電車に乗り換え三十分。会社近くの居酒屋へ向かった。案内された座敷の引き戸を開けた。案の定、島野部長は泥酔、その他の連中も程よく出来上がっていた。 「あっ、中條さ~んこっちこっち!」 熱血キャリアウーマンでうちの社で一、二を争う美人の仁科(にしな)さんも来てたのか……珍しい……あいつ皆に愛されてんな…… 「で、主役の土師(はぜ)は?」 「土師くんならあっち」   え? あいつも酔ってんのか? 「土師」 「ああ! 中條先~~輩。俺頑張りましたよ酒注いでくださーい」   なんだ…こいつ酒弱かったのか? 「おまえもう止めとけって」 「いいから座って酒注いで!」 土師がビール瓶を俺に渡してきた。俺は、仕方なしに土師が持つグラスにビールを注いだ。それを土師は一気に飲み干した。 「もう一回……」 土師と同期の斉藤(さいとう)さんが「土師くんって酔ったら可愛いのね~~」 土師の後輩の遠藤(えんどう)は「あんな土師先輩見たことないっす」俺と土師のやり取りを周りが楽しそうに見ていた。  確かに、土師がこんなに泥酔してるの始めてた見る。 「土師…俺が送ってってやるからもう止めな」 「……中條…先輩…ふぇ…」 え?! 泣いてる?! 面倒くせぇ…… 「あっ! 中條先輩泣かしたぁぁ!」酔うとさらにヘラヘラする遠藤の頭を軽く叩いた。 「うるせぇな…遠藤。俺の仕事やらせるぞ」 「うへ、中條先輩それは勘弁っす!」 それを見ていた周囲が、面白がってヤジが飛び交い収集付かない。まともなのは、世田さんくらいた。 「世田(せた)先輩、土師連れて帰ります」 「……土師くん相当酔ってんな〜〜じゃ、中條頼むわ」  いや、見えただけで世田さんも相当酔ってる……目が怖い…… 「おい、土師帰るぞ。しっかり立て」 俺は、泥酔状態の土師を担いで表通りに出た。タクシーの後部座席に、土師を押し込んで隣に俺も乗った。行き先を運転手に告げるとタクシーは目的地へと走り出した。  

ともだちにシェアしよう!