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運命なのかは後にして⑥

 俺は、後部座席で泥酔している土師の様子を見ていた。突然、手を握られ驚いた俺は後頭部を何処かで打つけた。それを見て土師が笑っている。   「……おまえわざとだったのか?」 「そうでもないですよ…勃ないくらいには酔ってます」 「おい……言い方」 「こうでもしないと来てくれないでしょう?」 「だからってこんな…っ」 「嫌ですか? 嫌なら手を放して降りればいい」  土師は、俺が放せなよう握る手に力を込めた。土師の細くて長い指が俺の指に絡んで、それがこの後を想像し妄想してしまって____   はぁ?! 今…何想像した? ねぇわ! あり得ねぇっ! 「顔…赤い」 「うるせぇ…手…痛ぇから放せ」 「……嫌です」 土師の手を放せまま、家まで来てしまった。土師は、玄関のドアを開け俺を壁に押し付けた。背中の衝撃で目を瞑った俺に土師がキスをする。熱っぽい唇が、俺の唇を軽く吸ってを繰り返す。止めないといけないのは分かってる…のに激しく求められ抵抗出来ない____ キスってこんなに気持ち良かったか……俺はどんなキスをしてたんだっけ? 土師の手がベルトに掛かった時、現実に引き戻された。 「……やめ…ろ…!」抵抗する俺を無視し、ベルトを外そうとする土師を押し退けた。 「なんで……」 「おまえ…こっ怖ぇよ! 俺だって考えてるってのに……」 俺は、土師の胸を叩いて壁に項垂れた。土師の長い腕が俺を強く抱き寄せて____ 「……すみません。貴方の気持ち分かってるのに優しいから堪らなくて……もうしませんから部下として今までどおり……だから…今日だけ傍にい…て……」 「おい…土師?」 俺は、寝落ちした土師を担いで寝室のベットへ寝かせた。一日ここへ帰らなかっただけなのに懐かしく感じるのは、土師ん家の匂いのせいか。気を使わない穏やかな一週間……ここで過ごした数日間を思い出していた。会社で見せない土師の笑顔とか、料理上手でたまにクソ生意気で強引で……俺は……   「三十過ぎのおっさんをドキドキさせんな…一人て突っ走ってんじゃね……よ…クソガキめ」  土師は、寝息きをかきながら寝ている。俺は、鼻先にあるメガネを取って、雑に土師の頭を撫でた。 翌朝、寝室から出てきた土師に声を掛けた。 土師は、昨日の事柄を記憶しているのか俺の顔を見るなりしまったって顔をした。 「 やっと起きたな。で、なんか言うことないか? 全部覚えてんだろう?」 「……昨日は、ご迷惑かけてすみませんでした」 「よし! じゃ俺そろそろ行くわ」 「え? 何処へ?」 「不動産屋。連絡来たからさ…色々、世話になった…じゃまた会社で」 「……はい」 土師は、そう言ったきり俯いたまま俺の目を見ようとしない。土師が言った今までどおり、会社の上司と部下として戻るんだ。昨晩、俺が考えて出した答えだった。

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