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運命なのかは後にして⑭

 毎日が同じで、特に良くもなく不可もない。それが不満とも思わない。  数ヶ月前までの俺は、日常に愛だの恋だの胸キュンだの、色恋沙汰なんかに振り回されるなんて思ってもみなかっただろう。   「おはようございます」 「おう、おはよう」 黒縁メガネに重めの前髪、若者で流行りのツーブロックマッシュとかいう髪型で仕立てのいい濃紺のスーツに、どこぞのブランドモノのコートを着こなす男…土師宇司(はぜたかし)は、俺の色恋沙汰の根源である。気立の良い女性(恋人)と結婚してなんて理想としてはあったのだが、まさか男に好かれ、俺自身も満更ではない事態になるとは…人生なにがあるか分からんもんで。   そう____男なんだよな…… 「……なんですか人の顔…ジロジロ見て」   あっやべぇっ 「いや…横から見ても目と鼻と口が整って配置されんなって」 「何言ってんですか…目と鼻の位置がズレてたら怖いでしょう」  最近、分かったんだが、落ち着いて見える土師が動揺してる時、眼鏡をやたら上げたり、無表情なのに目が泳ぐ。今も眼鏡に手をやったまま動かない。  おや? おやおや?顔を赤いとか…… なんだよ…デレたのか?クソ、一瞬でも可愛いとか思ってしまった 俺自身が憎らしい! 「なんでもねぇよ!」俺は、土師の背中をグーで殴り来たエレベーターに乗った。 「痛っ! 何するんですか!」 「ほら、早く乗れや。置いていくぞ〜」 「信じられんねぇ……」  エレベーターに乗ってきた土師が腕を伸ばし閉のボダンを押した。その長い腕が俺の後頭部を掴んで____   え____? キスされてる? 「ほら、降りないんですか? 中條先輩」ニッコリ笑った土師はいつもの土師だった。  や…やり返された? ……胸キュンとかしてんじゃねぇ俺! 「胸いってぇ……」  誰か俺に求心下さい!    これって、社内恋愛っていうやつなんですか? ちょっと何? ウケるんですけど…… 俺、中條拓巳(なかじょうたくみ)、三十四歳独身。男にときめく複雑な心境なのである。

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