15 / 51
運命なのかは後にして⑭
毎日が同じで、特に良くもなく不可もない。それが不満とも思わない。
数ヶ月前までの俺は、日常に愛だの恋だの胸キュンだの、色恋沙汰なんかに振り回されるなんて思ってもみなかっただろう。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
黒縁メガネに重めの前髪、若者で流行りのツーブロックマッシュとかいう髪型で仕立てのいい濃紺のスーツに、どこぞのブランドモノのコートを着こなす男…土師宇司 は、俺の色恋沙汰の根源である。気立の良い女性 と結婚してなんて理想としてはあったのだが、まさか男に好かれ、俺自身も満更ではない事態になるとは…人生なにがあるか分からんもんで。
そう____男なんだよな……
「……なんですか人の顔…ジロジロ見て」
あっやべぇっ
「いや…横から見ても目と鼻と口が整って配置されんなって」
「何言ってんですか…目と鼻の位置がズレてたら怖いでしょう」
最近、分かったんだが、落ち着いて見える土師が動揺してる時、眼鏡をやたら上げたり、無表情なのに目が泳ぐ。今も眼鏡に手をやったまま動かない。
おや? おやおや?顔を赤いとか……
なんだよ…デレたのか?クソ、一瞬でも可愛いとか思ってしまった 俺自身が憎らしい!
「なんでもねぇよ!」俺は、土師の背中をグーで殴り来たエレベーターに乗った。
「痛っ! 何するんですか!」
「ほら、早く乗れや。置いていくぞ〜」
「信じられんねぇ……」
エレベーターに乗ってきた土師が腕を伸ばし閉のボダンを押した。その長い腕が俺の後頭部を掴んで____
え____? キスされてる?
「ほら、降りないんですか? 中條先輩」ニッコリ笑った土師はいつもの土師だった。
や…やり返された? ……胸キュンとかしてんじゃねぇ俺!
「胸いってぇ……」
誰か俺に求心下さい!
これって、社内恋愛っていうやつなんですか? ちょっと何? ウケるんですけど……
俺、中條拓巳 、三十四歳独身。男にときめく複雑な心境なのである。
ともだちにシェアしよう!