16 / 51

運命なのかは後にして⑮

 ときめくのは致し方ないとして、複雑なのは土師(はぜ)に触れる事だ。嫌じゃないと言ったものの、いざそういう雰囲気になると避けてしまうというか、そうならないように茶化してやり過ごしているのが今の現状で、実際のところ最後まで致していないのだ。   キスは…まぁ、お付き合いしてるし…嫌じゃないんだけども! 普通に出来る自分にも驚いたが!  長年、男として生きてきたセクシャリティーを急に変えるとなると、気持ちが追いつかないのだ。だからといって、土師側…所謂(いわゆる)、攻めというポジションになれるかとか…考えてみるまでもなく否だった。土師に対して特別な感情はあってもゲイではないわけで。  土師とはここニヶ月、時間が合えば一緒に晩飯を食べ、週末は土師宅で一緒に過ごす。居心地のいいのは、相変わらずで以前となんら変わりないと思っていた。  数分前まではの話____ 「……気立のいい嫁とか理想だな」 「先輩はそうゆー人がいいんだ」 「え……?え……何?」  いつもの週末、土師宅でTVを観ていた俺は、心の声をつい呟いてしまった。 「あっいや、例えばの話で……」  隣に座る土師が、黒縁メガネ越しに俺をじっと見ている。そして大きな溜息を吐いた。 「中條(なかじょう)先…拓巳さん」 「は…い……?」 「俺は……いや、なんでもない…ですよ」立ち上がった土師は、俺の荷物を乱暴に投げた。 「今日は帰って下さい」 「え? なんで?」 「じゃ、なきゃヤるよ……」ニッコリ微笑む土師の目が本気(マジ)だった。 「わ…わっ分かった…分かったから」  俺は、逃げるように土師宅から出た。帰る道中、帰宅後もずっと土師の事を考えていた。帰宅後、此処へ引っ越ししてやっと慣れてきたベッドへ身を預けた。 「また、なんかやらかしたんだな俺……」 だからデリカシーがないって言われるんだ。  土師が何に対して腹を立てたのずっと考えてみたが、結局のところ分からなかった____取り敢えず、土師へ謝罪のメッセージを送った。

ともだちにシェアしよう!