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運命なのかは後にして⑱

  土師(はぜ)が確認しに出ていき、五分も掛からず白衣姿の男性と一緒に戻ってきた。俺と同年代かもしくは少し上辺りか、黒髪、短髪で清潔感のある印象を受けた。  年々、体型維持が難しい年になってきている俺に対して、脂肪が付いてくる胴回りは、引き締まり余分な物が見当たらない。相当、頑張っているのか、それとも体質なのか、などと考えながら、俺は少し出てきた腹を意識的に引っ込めた。 「中條です。すみません、お忙しいのに」 「佐々木です。ちょっとすみません」思ったより低めの声で挨拶した佐々木は、スマホを取り出し何処に掛けた。 「……島野、おまえが来るんじゃなかったのか? はぁ?! おっおい! おい! ったく」  島野部長の知り合いか……?  佐々木は困った表情でため息を吐いた。うちの島野部長とは、高校からの腐れ縁だと言う。この機械も島野部長が開発した製品でこうしてたまに動かなくなると言った。佐々木に理由を聞くと「佐々木の愛が足りないからだ」と島野部長がそう言ったらしい。 「……本当、癖モノですね」と俺が佐々木に言うと深く頷いた。 「あいつは、昔から…俺を困らせて面白がってるんだ」    愛が足りない……か…… 俺は、何気にノートパソコンを睨みつけている土師の横顔を見た瞬間、目が合ってしまい、不自然な感じで目を逸らしてしまった。 「……恐らくなんですか、特定以外の誰が触るとロックが掛かるみたいなんです」と土師が言った。 「そのロックを消去する方法は?」佐々木がノートパソコンを覗いた。 「それはこのシステムを作った本人でないと分かりません」 「動くなった時点で島野()を呼べということか?…くだらん」  佐々木は、口ではそう言っているが、俺には怒っているように見えなかった。悪戯好きの子供相手して、楽しんでいるように見えた。 「取り敢えずロック解除しましょう。パスワードお願いします」とノートパソコンをタイピングしながら土師が言った。 「パスワード……」佐々木が何かを躊躇うように白衣のポケットから小さいメモを取り出し、出来ればじっくり見ないで早々に解除して欲しいと付け加えた。 じっくり見ないでとはなんだ? 「では、後…宜しくお願いします」佐々木は、軽く会釈をし逃げるように立ち去った。 俺と土師は、佐々木から受け取ったメモを見てお互い顔を見合わせてた。最初に吹き出したのは土師だった。 「……笑うな」 「……先輩だって笑ってるじゃないですか」 「早く…解除しろよ」 「ちょっと…待って…下さい」 「……笑い…過ぎだろう」 「はい…これで解除出来ました」 「よしっ! 」 「……佐々木さんってゆるキャラ好きなんですね…意外…痛っ!」 「こら、これは個人情報だぞ」 「なに…真面目な大人ぶって…普段はポンコツなのに」   ポンコツゆーな! 「なんだよ…まっ確かに…土師くんよりは大分大人だからな」 「普段もそれくらい気を利かせて下さいよ… クソ! 生意気! 朝の可愛いは撤回だ! 俺は、無言で土師の頭を軽く叩き、機械の電源をONにする。土師は、その頭を摩りながら正常に起動したことを確認した。

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