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運命なのかは後にして㉕
マンションのエレベーターに乗り、階数を押して閉を連打した。俺の部屋の前で、座っている人物が俺に気付き立ち上がった。
やっぱり……土師だったか……
「なんだ、彼女と寄り戻ったんじゃないの?」
「ちっ違う! 俺の忘れ物を……」
「そんなの…信じられない!」
「土師!」俺は、土師に駆け寄り腕を掴んだ。
「放せよ!」土師が俺の腕を払った拍子に、持っていた小さな箱が勢いよく転がった。中の何かが割れた音がした。
「土師! 俺の話を聞けって!」
「聞きたくない! あんたのことになると余裕なくなるし…あんたと違って俺は…傍にいるとどんどん嫌なやつになって…こんな自分が嫌で……」
「俺だって…これでも悩んでんだよ! 少しは俺の気持ち分かれよ……」
「分かん…ないですよ! あんたが悩んでんの…分かってたけど…なんで言ってくれないんですか? 付き合ってるんでしょう?」
一人の想いだけじゃダメなんです……
小賀の言った言葉がよく分かった。こうなるのが分かっていたから忠告したんだ。俺が中途半端だから土師を苦しめているって……
俺が土師にこんな顔させているのか?
母さん……ねぇ……
母の腕を掴む小さな手を、顔も見ずに母がその手を振り払った____幼少の頃の記憶。
深く考えないようにして…そうしないと生きていけなかった。失うくらいなら最初から諦めて……
「先輩……」土師の手が頬に触れようとする。
「……怖いんだ……」俺の頬に触れそうになった手を、土師はゆっくり引っ込めた。
「先輩が辛いなら…止めましょうか? 俺達……」
辛いのはおまえの方だろう……
こんな言葉を言わせたいんじゃない。こんな酷い顔をさせたいんじゃないのに……
俺は、人と深く関わってあの時と同じように、置いてかれるんじゃないかって____
溢れた涙が俺の頬を伝っていく。土師の頬に伝う涙を、今の俺には拭ってやる事が出来ない。
こんな自分を知られるのか怖い……
「……ごめん」
土師は、ゆっくり首を横に振って頬を伝う涙を拭った。
「……大丈夫…俺、ちゃんと仕事もしますし、貴方の部下に戻りますから……」
土師は、笑顔で去っていった。俺は、玄関を開けそこにしゃがみ込んだ。込み上げてくる嗚咽を、必死になって抑えたが無駄だった。
人ってこんなに涙が出るのかってくらい泣いた。
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