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運命なのかは後にして㉖
母さん…父さん!
置いていかないで!
小さな手が去っていく男女の背中に触れようとして大きな手が払った。
あんたなんて産まなきゃよかった____
いつもここで目が覚める。知った自宅の天井が目に入った。俺は、頬を伝う涙を拭い重い気分のままベッドから身体を起こした。
この夢が本当にあったのか、母に引き取られていた記憶が俺にない。短い間だったから覚えていないだけかもしれないが……母は、俺を手放したくないといい、周囲の反対を押し切り俺を引き取った。その責任感と、それを背負うくらいの社会経験もない若い母は、精神を病んでしまった。
父に引き取られた後、特に環境が変わったけではなく、優しい人だったのは覚えている。仕事人間で一人の時間が増えていき、父の顔すら覚えていない。見兼ねた親戚が、俺を面倒見てくれるようになって……俺の記憶が鮮明なのはそこからだった。
その頃には、俺の一部が壊れていて人に対し境界線を引くようになっていた。俺を明るくて軽いやつだって誰もが言った。その場の空気で、自分がどうあればいいか最初は考えていた。段々、それが無意識になり考えるを止めた。
人はそれ程、他人に対して興味がないと知ったから____
だか、恋愛は違う。関係が深くなるにつれ、相手が違和感を感じるらしい。何考えてるか分からない。本当に好きか? そう聞かれても、何も考えてないし、相手が好きと感じないなら、そうなんだろうとしかいいようがない。
今まではそうだった____
土師に対する気持ちが大きく振れる度、心の片隅から広がり始めた。俺は、それに蓋をして気付かないフリをしていた。
これで良かったじゃないか。もっと、土師に相応しい相手がいるだろう。
「あんな格好悪い言葉を吐くなんて……なに年下相手にマジになってんだよ……」
俺は、洗面台の鏡で腫れぼったい瞼を指で押さえた。
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