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運命なのかは後にして㉗

 毎日が同じで、特に良くもなく不可もない。それが不満とも思わない。   数ヶ月前の俺に戻るだけ……  俺は、いつもより早く出社し、起きてから何も食べていなかった為、空腹の限界が来ていた。取り敢えず、休憩室で甘めの缶コーヒーを飲んで紛らわそと自販機のボタンを押した。 「おはよう」 島野部長? 珍しいな…この時間だったら機械開発部にいる筈なのに…… 黒髪を無造作に後ろに撫で付け、無駄に色気のある五十代には見えない容姿と長身でどうやって体型維持してるのか、スリムの体型にダークグレーのスーツが良く似合っていた。 「おはようございます」 「どうだ身体の具合は?」 「お陰様で…すみませんスケジュールギリギリなのに休んでしまって」   「大丈夫、世田(せた)土師(はぜ)が頑張ってくれたし、礼言っとけよ!」無駄に爽やかな笑顔が泣き腫らした目には眩し過ぎた。    島野は、自販機でロイヤルミルクティーのボタンを押した。  そうだこの人、昔から甘党だったな…… 「で…最近、仲の良い土師くんとはどうなの?」 「なにがですか? 俺には勿体ないくらいのいい部下ですけど?」 「中條が面倒見がいいのは知ってるが、誰かを自宅のまで送るなんて…今までしなかっただろう?」    よく見てんな…… 「ああ、ちょっと事情で世話になったんですよ」 「へぇ…そう」 何を勘ぐってんだ…本当、この人…苦手…… 「眼鏡…昔の君を思い出すな…俺は平気だ…って顔」 「あんたのそうゆーとこ…本当…嫌い」 「変わらないな…拓巳は」島野は、揶揄うように笑った。 「会社(ここ)では、名前で呼ばないで下さいって言っただろう」 「そうだった…すまない…それより、由樹之と結之助が心配してたぞ…たまには、連絡してしてやれよ」   相変わらずお節介だ…… 「……そうですね」 休憩室のドアが開いた。その知った顔を見て俺は、残りの缶コーヒーを飲み干した。 「あんま心配掛けさせんなよ…あっ今度飯でも食いに行こう…土師くんも一緒に… なぁ、拓巳」 「だから…それ止めろって」     わざとだろう!  島野は、休憩室に入ってきた土師に挨拶をして出て行った。  土師は、自販機の立ったまま動かない。暫く悩んで、微糖の缶コーヒーのボタンを押した。それを開け一口飲んだ。  ほら…微妙な空気になったじゃないか…… 「……色々…すまんかったな。助かったよ」 「いえ、別に」 超…テンション低っ! 「……島野部長と仲良いんですか?」 「それ…土師に関係あんの?」 「関係ないですけど……」 「じゃ、余計な詮索すんな」  あっやべっ言い過ぎたか…相変わらず無表情で分かんねぇ…… 「……眼鏡なんですね」 「ああ…ちょっとな」  土師の眼鏡越しの目が、俺と同じだったのにはスルーしておいた。なんかもっと微妙になんのかと思ったが案外、普通なんだな。 「俺だけが知ってる先輩だったのに……」 「そうだっけ?」 「……外して下さい」 「え……?」 「外して下さい…眼鏡」 「なんで?」 「いいから」  俺は、言われるまま眼鏡を取ると土師に奪われた。 「ちょっとなにすんだよ…返せ」 「嫌です」 「はぁ?! おまえは子供か!ったく…あっそうだ、置いある荷物今度…取りに行くわ」 「……嫌です」 「あっても邪魔だろう?」 「あんたの脳は鳥以下ですか? そんな簡単に切り替えれない…あんたみたいにタフじゃない!」 「鳥以下ってなんだよ…じゃ…いい。土師が処分しといて」 「嫌ですよ!」  土師は、持っていた缶をゴミ箱に投げ付け休憩室のドア開た出てった。派手な音を立てて扉が閉まる。 「なんなんだよ…あいつ…タフなんかじゃねぇよ……」   俺は意気地が無いだけ____ 「あっ眼鏡」  休憩室から戻った俺は、デスクの上に眼鏡と仮工程表が置いてあった。確認お願いしますと土師の綺麗な文字で付箋が貼られていた。  なんの嫌がらせだ? 土師のやつ見て欲しいなら直接言えよ……  その後、眼鏡の俺を上司や同僚、部下までもが好き勝手言うは、いじられるはで、適当な理由を言うのも面倒で、後の方なんか聞き流していた。俺は、二度と仕事場では眼鏡をしないと土師に宣言しておいた。

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