35 / 51

運命なのかは後にして㉞

 案の定、酔い潰れた俺を担いでタクシーに押し込み、隣に乗った土師(は ぜ)小賀(こ が)が何か取りしていたが俺には聞こえなかった。   「……だからも言ったでしょう。人のいう事、少しは聞いて下さいよ」 「すまんって…楽しかったからつい……」 「ほら…鍵、貸して…もう」 土師は、俺の鞄から鍵を取り出して開けた。俺を担いでベッドへ放り投げた。 「痛っ、もっと優しく扱えよ」 「そんな必要ないだろう。自業自得だ」  俺は、土師のネクタイに手を伸ばし引き寄せた。 「なぁ…しねぇの……?」 「しません」 「ちっ、つまんね〜の」引き寄せた土師のネクタイを離した。 「……とっとと寝ろ酔っ払い」 「もう遅いから泊まってけよ…明日は休みなんだし、風呂…勝手に使っていい…から」 「じゃ…そうします」  俺は、眠気で重い瞼を閉じた。  ああ…またあの夢____ 誰もいない部屋…寂しい…辛い…暗い感情が溢れ出る……怖い…… 俺の小さい背中に誰が触れる。その手が暖かくて、支配されていた暗い感情が薄れていく。 「大丈夫……」と背中を摩る手は誰かに似ていて、俺は包まれる温もりを抱き締め深い眠りに落ちた。  なんだ? 重い____  目を開けて驚いた。土師に抱き付いて寝てるとかなんだこの状況…… 俺は、寝てる土師の顔を眺めた。整った顔立ちが、寝ていても分かった。  へぇ…睫毛意外に長いんだな…… とか見ていたら土師の片目が開いた。俺は、土師の腕を退け身体を起こした。 「……起きてるなら言えよつーか、なに抱き付いてんだよ」 「……あんたが抱き付いてきたんだろう」 あっあれって夢じゃなかったのか? 「そうかよ…すみませんね…ああ、頭痛い」 「いい年なんだから、飲み方くらい考えたらどうですか」  うっ……正論過ぎて否定出来ない! 俺…なんもやらかしてないよな…… 「すみませんね! 気だけ若くて」 「俺には、実年齢より二、三歳は若く見えてますよ」 フォローになってねぇわ! 「俺、なんか作ります…食べたいものありますか?」 「ん……味噌汁」 「了解」土師は、ベッドから起き上がり冷蔵庫を開けた。  俺は、土師の俺の?シャツに俺の?パンツ姿を眺め可笑しくて笑った。  あれは、女がやるから可愛いんだが… まっ 可愛いと思ってしまってる俺も俺か……  そして、またベッドに身体を預け目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!