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運命なのかは後にして㊱

   土師に返事をした後、なんだか落ち着かなくて、俺は掃除や洗濯や普段しない所まで片付けてしまった。  待ち合わせの時間までまだ時間あるな……  俺は、机の上に置きっぱなしになってある年季の入った小さな箱に目をやった。この前、由真から受け取ってまだ開けていない。側にあったカッターで開けようとした時、スマホが鳴った。俺は、相手を確かめて画面をタップした。 「結之助(ゆいのすけ)どうした?」 「由樹之(ゆきの)が……」結之助の声が遠くて聞き取れない。 「え……? ごめん聞こえない」 「親父が…倒れたんだ」 由樹之さんが____? 俺は、結之助から聞いた病院へ向かった。病室のドアをノックし開け中へ入った。 「……結之助」スーツ姿の結之助がこちらを振り返った。 「拓巳…さん、ごめん電話なんかして」 「いい…それよりどうなんだ由樹之さん」 結之助は、心配そうにベッドに寝ている由樹之を見て俯いた。 「単なる過労だって…医者は言ってるけど…最近、眠れてない感じだったし、忙しくしてたんで心配してたんだ」 ベッドに寝ている由樹之は、顔色が悪く少し痩せたように見えた。元々身体の弱い由樹之は、気付かない内に限界を越えてしまう。それを俺と結之助は、傍で見てきたからよく知っていた。  結之助は、マスク越しに鼻を啜った。この様子だと家に帰ってないんだろう。結之助も身体が強いわけじゃない。このままだと結之助まで倒れてしまいそうで余計に心配になった。 「大丈夫か?」 「……俺は平気だよ」 「真樹之には連絡したのか?」俺は、結之助の隣へ丸椅子を置き座った。 「一応…多分来るんじゃないかな。心配症だし」   確かに……  こうやってると昔を思い出して、俺達は少しの間昔話しをした。 「……(つかさ)とは連絡あんの?」 「母とはよくメールしてるよ。相変わらず海外飛び回ってる」 「そっか」  結之助は、母親に置いていかれたと思い込んでいた。  子供を願ったのは、由樹之で司は、由樹之が育てるというのが条件で受け入れた。司は、家族じゃなく仕事を選んだ。司がいなくなったのは、結之助が小学生になったばかりだった。似た境遇だった俺達は、会ってすぐに打ち解けた。結之助の小さな手が俺の手を握る。俺は、この手を絶対離したりしないと子供ながらに思った。  それは、大人になっても変わらない。俺は、隣に座る結之助の手を握った。 「……暖かい」結之助の顔が少し緩んだ。 「俺の手より結之助の方が大きい……」 「本当だ……」  それから暫く二人の間に沈黙が流れた。由樹之の腕に繋がっている点滴が半分になった頃、静かに目覚め虚ろな目が俺達に気付き瞬きした。 「……結之助に拓巳?」 「とうさん……」 「由樹之さん、大丈夫ですか?」 「……すまない、迷惑掛けて」上半身を起こそうとする由樹之を結之助がそれを手伝った。 「本当だ…心配したよ」 「すまない…結之助」由樹之は結之助の手を握った。  仲のいい親子なんだ。俺からしたら羨ましいくらいの…… 「結之助…何が飲み物買って来て欲しい」 「……分かった」

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