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運命なのかは後にして㊲

 結之助(ゆいのすけ)が病室から出ていくのを確認し、由樹之(ゆきの)は俺を見て少し目線を逸らした。 「拓巳、元気そうだな」 「そうですね……なんとか」 「真樹之(まきの)とは上手くやってるのか?」 「……はい」その返事を由樹之は苦笑した。 「その様子だとそうでもないのかな? あいつクセが強いからな」  笑うとよく似てる……双子だしな……  普段は、全然似てない体格も性格も正反対。でも、笑うと似てるって思う。結之助は、真樹之似ている。性格は、由樹之さんでよかったが…… 「拓巳…志之(しの)に会う気はないか」 「……親父がそう言ってるのか?」 由樹之がゆっくり首を横に振った。少し間が空いて「……昏睡状態になったり、目を覚ましても誰かを認識出来る様子じゃなくなってきている」 「もしかして…由樹之さんが親父の看病してんの?」 「……私は何もしてない……何も出来ない。ただ、弱っていく兄を見てるだけだ」  「・・・」 「拓巳には後悔して欲しくないから」  由樹之さんが倒れたのって親父のせいだ…… 「……あいつは、どこまで迷惑を掛けるんだ」 「……志之は…兄は、拓巳を引き取ってた後…自分が病に侵されてる事が分かってね…治療はしたんたが…私に拓巳を預けに来た時、また、再発してそれから入退院を繰り返していた」 「……そんなの聞いてない」 「志之が言わないでくれって」     志之がそんなことを…… 「父親らしいことは何もしてやれないからって…本当は…会いたいはずなのに…自分の命がもう長くないって知った時も、拓巳に会いたいとは言わなかったよ……」由樹之の声が微かに震えた。    俺は、幼い頃からずっと父親に愛されてないと思っていた。今更聞かされてもどうしていいか分からない。混乱する感情と、今だから分かる父の想いが込み上げてくる。俺は、眼頭を押さえ必死に感情を抑えた。 「……分かった…よ」 「そうか…ありがとう」 「会って文句を…言って…やる」 「拓巳…らしいな」俯いた俺の頭を由樹之が撫でた。  その手が幼い記憶の父の手に似ていた。

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