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運命なのかは後にして㊶

 ソメイヨシノという花が咲く季節は、出会いや別れ連想してしまう。切ない気持ちになるのはそのせいか。  俺は、駅前のまだ少ししか咲いてないその枝に目をやった。早朝から生憎の雨でせっかく休日なのに余計、切ない気持ちになった。  俺は、志之の見舞いに由樹之さんから聞いた病院へ来ていた。  昨日、二十年以上会ってない志之が、俺を覚えてるだろうかとか、色々考えいたら朝になっていた。  病室の番号を確かめドアを開けた。ベッドに横になっている人物が本当に志之なのか分からない。俺の記憶を辿っても顔を思い出せない。 「……誰?」掠れた声が問いかけてきた。志之の声がどんなだったかも覚えていない。 「拓巳…?」と呼ばれ戸惑っていると、上半身を必死で起こそうとする志之が目に入った。 「拓巳…拓巳なのか?」痩せた腕を伸ばす志之の手を俺は遠慮がちに握った。  こんなに志之の手は細かったか? 「……とうさん」 「拓巳…すまない…本当にすまない」 文句を言ってやろうと思ってた…… 「もう…いいよ…とうさんだって辛かったんだろう」  こんな弱ってる父に言えるわけない…… 俺は、志之の背中に手をやり触れた。痩せた背中は骨張っていた。本当に父の命がもう長くないんだと知った。  志之とは少し話をした。上半身を起こしてるのが辛そうだった志乃を横に寝かしてやると静かに目を瞑った。その寝顔は、由樹之さんによく似ていた。 「……とうさん、またな」 俺は、志之の手を握りそっと放し、病室を出たところで女性と鉢合わせた。 「あっすみません」 「いえ…こちらこそすみません」   父より大分若い女性だった。この病室の前にいってことは、父の知り合いかもしれない。  俺は、父のお知り合いの方ですか?と尋ねた。その女性は、俺を見て驚いた顔をしたまま動かない。 「どうかし…ましたか?」 「……拓巳?」 ____誰だ? 「……かあ…さん?」どうしてそんな言葉が出たのか分からない。  本当に母なのか____? 俺がそう呼ぶと、その女性は泣き崩れてしまった。俺は、母を連れて近くの椅子へ座らせた。   記憶の母はどんなだったか…… 多分、俺に母がいたらこれくらいの年齢なんだろうと思いながら、記憶を辿ったが若い母の顔までは出て来なかった。俺は、肩を震わせて泣いてる母の傍に腰掛けた。   「……貴方が元気でよかった」 「父に会いに…来たのか?」 母は、ゆっくり首を横に振った。「貴方に会いに来たの」 「……俺に?」 「真樹之さんから連絡があって…後悔してるなら拓巳に会ってこいって」 「真樹之が?」 「ええ、最初は今更って思った…会えるかも分からないのに…でも、もし会えたらって思って」母は何かを決心したように自分の手を強く握った。  

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