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運命なのかは後にして㊸

 暫く気が休まらない日々を過ごしていた。そんな俺を察してか、土師がメッセージの練習だと言い、他愛のないやり取りをするようになった。俺も気が紛れて助かってはいたが…… 「なぁ……おまえさ何してんの?」 俺は、最近引っかかっていた事柄について目の前にいる土師に問いかけた。  スエットでも男前ってどういう事だ…… 「先輩と将棋?」土師は、駒を人差し指と中指で挟み、碁盤の上に置いて駒を取り裏返して指した。 「それは…見たら分かる」俺も駒を人差し指と中指で挟み碁盤の上へ指した。  土師と俺は、本格的な将棋盤を挟んで向き合っていた。最初は、土師が将棋を指せるって聞いて誘ったけれど、ここのところ結構な頻度でうちへ来ている。 「俺と…土師はなんだ?」 「……上司と部下?」土師は、駒を指し駒を取って裏返して指した。 「なんで疑問形を疑問形で返すんだよ…あれか友達いねぇとか?」俺は、駒を人差し指と中指で挟み指した。 「いますよ…普通に」 「いんならそっちの方が楽しいだろう…わざわざ休みの日にオッサン相手するよりかさ」 「先輩が誘ってきたんだろう」 「いや、そうだけども……」 「別に、このじじ…渋い趣味に付き合うの楽しいですけど」 「今ジジ臭いって言おうとしたな…ああ〜〜今ので、将棋好きを敵に回したぞおまえ」 「その割には、あんた弱いですよね」土師は、駒を俺の陣地の王将と書かれた駒の前に指した。 「あっ! 待った! 土師…強過ぎだって!」 「何回待つんだよ! あんたが弱過ぎるんだ! 祖父の相手してたから結構、強いって言ったし……ってやっと気付いたんすね」土師は、俺の方をじっと見ていた。 「気付いたと言うか気になってさ」 「気になってってもう一か月近く経ってるけど? 気付くの遅過ぎたろう!」    そうですげども! 「もう、来なくて大丈夫だ。なんか気遣ってくれてたんだろう?」 「……そんなんじゃない。怖いって言ってたから…どこまでだったら近付いていいんだろうって試してた。案外、許してくれるから」 「おい、勝手にお試しとかしてんな!」  つーか、言うなよ…秘めとよ! 逆にこえぇわ! 土師は、俺から目線を逸らし、何かを考えてまた俺の方を見た。 「……俺達、もう一度やり直しませんか?」 「なんか…気を持たせるよう事したなら謝る…確かに情はあるし、いいやつだけど…男女間で上手くいかないやつが、同性同士とか絶対上手くいきっこないって」 「その逆はないんですか?」 「……ポジティブだなおまえ」俺は、その反論に苦笑した。 「俺にとってあんたは特別だから」   特別ね…… 「そういうの俺には分かんないんだわ…大事な人は皆んな特別だし…正直、誰か一人ってなんねぇんだよな…そうゆーとこがダメなんじゃねぇか」  俺は、いつになく真剣な土師に嘘は付きたくなかった。だから今思っていること全部話した。土師は、何か言おうとして立ち上がった。 「分かりました」土師は、特に変わった様子はなく帰りますと言った。 「ありがとな。今まで将棋付き合ってくれて」 「いえ、俺と先輩…相性いいと思うんですけどね」 「……そうか?」 「中條先輩、今までありがとうございました」土師は、笑顔で去っていく。 「気ーつけて帰れよ」  俺は、まるで最後の挨拶みたいだなと思いながら土師の姿を玄関前で見送った。

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