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運命なのかは後にして〜最終章〜

 毎日が同じで、特に良くもなく不可もない。それが不満とも思わない。  普通が何がいけないというのか……それが、日常だから気付きにくいのかもしれない。  得意先の納期が終わり一旦落ち着いた頃、社内は、支社で研修を終えた新人達の配属が決定し、その内の一人を俺が担当する事になった。 「中條(なかじょう)主任」誰かとよく似た髪型に、着慣れていないスーツが初々しいく感じる。   その髪型…なんか流行ってんのか? 「あっ村瀬(むらせ)くん、その主任って言わなくていいから」   「そうなんですか?」その反応がまたまた初々しい。 「そうそう、ここで呼んでるやついないから先輩とかさんでいいよ」 「はい、中條さん…先輩」 君もそっちね……そういや土師のやつ見ねぇな…… 「じゃ、取り敢えずこれやって」 「はい」村瀬は、俺が差し出した工程表を受け取りデスクに戻った。  週明けに一度、見掛けてから土師の姿を見ない。  俺は、喫煙所で缶コーヒー片手に電子タバコをゆっくり吸って煙を吐いた。 「お疲れ」   げっ真樹之……  俺が新人研修を終え、大阪支社から本社に配属になって真樹之(ま き の)を社内で見掛けて思わず声をかけた。 「あんたなんでいんの?」 「拓巳? 俺? 今日からここの部長」  という会話をしたのが、十数年前のこの季節でしかも喫煙所(こ こ)だった。世の中、狭過ぎるだろう。俺は、身内が社内にいるという事実を、社内では成るべく関わらないように他人のフリをしてやり過ごしてきいた。   なのに…なんでこう会うんだよ! 「島野部長、お疲れ様です」 「そう…露骨に嫌な顔すんな。今年の新人くんはどうだ?」真樹之は、カフェオーレの缶を開け一口飲んだ。 「スキルも問題ないですし…まぁ、コミュニケーション能力がもう少しあればいいんじゃないですが」 「……コミュニケーション能力ね。失語症だったやつがよくいう」 「お陰様で今は、滑るように喋れますよ」 「……会ったのか母親に」  俺は、目線を逸らし頷いた。真樹之は、無言で俺の隣の椅子に座った。 「拓巳…許さなくてもいい…だか、あの二人はおまえを愛してるこれだけは覚えとけ」 「……分かってる……ありがとう」 「なんだ、急に気持ち悪いな」俺が睨むと真樹之は苦笑した。 「つーか、社内(こ こ)で身内の話しはやめろよ」 「そうだな…すまん」  真樹之は、俺の頭を撫でて肩を抱いた。昔もこうやって傍にいてくれたのをなんとなく覚えている。  真樹之は、立ち上がり喫煙所のドア付近でこちらを振り返った。 「そういや、土師の転勤の話は聞いたか?」 「……聞いてません」 「本人は、自分から報告するって言ってたが…今のところヘルプで大阪支社にいってるが本人次第でそうなるかもしれん」   土師が転勤……? 「なんだ、寂しいのか?」 「そんなんじゃないですよ……」俺は、持っていた缶コーヒーを一気に飲んだ。  なんだか探るような目をした真樹之は、ニヤニヤしながらお疲れといい喫煙所を出ていった。

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