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体育祭編『第15話』

 一人暮らしのアパートに到着し、夏樹はさっさと部屋に入った。  市川は近くのコインパーキングに車を停めてから戻ってきた。どこの国の旅行者かっていうくらい、荷物をいっぱい抱えている。 「……すごい荷物ですね。一体何持ってきたんですか?」 「ん? まあいろいろとな。夏樹とイチャイチャするのに必要な道具とかさ」  ……聞いた自分がバカだった。 「そんなことより夏樹、今日の夕飯何食べたい? 好きなもん食べさせてやるぞ~!」 「別に、特にこれってものはないですけど」 「そうなのか? というかお前、いつも何食べてんだ?」 「えっ!? ええと、それは……」  ハッキリ言って夏樹は、料理が苦手だ。レトルトカレーを温めて食べる……くらいはできるけど、一から何かを作ろうとすると未だに上手くいかない。  いずれ市川の実家――真田家の住み込みのお手伝いさんとして働くことを考えれば、そろそろ料理の練習もしないといけないのだが、ご飯を食べるのが自分一人だと思うと「まあいいか」となってしまって、ついレトルト食品や冷凍モノに頼ってしまう。 「じゃ、俺がお手製のフルコースを振る舞ってやるとするか。今ある食材はー……」  市川が冷蔵庫を開けようとする。 「あっ! ちょっと、勝手に見ないで……!」  慌てて止めたのだが、一歩遅かった。 「……え?」  冷蔵庫の扉を開けた途端、市川が固まる。数秒中身を凝視した後、溜息すらつかずに言った。 「見事なまでにすっからかんだなぁ……。ペットボトルのお茶くらいしか入ってない」 「しょ、しょうがないでしょ! 今日買い出しに行こうと思ってたんですよ!」 「え、そうだったのか。さすが夏樹、無駄な買い物しないようにしてるんだな。偉い偉い」 「あ……はあ……はい」  ……なんだか、変な罪悪感を覚える。

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