210 / 282

体育祭編『第16話』

「よし、じゃあ一緒に買い出しに行こう! 車出してやるからさ」 「車はいらないでしょ。すぐそこのスーパーですし」 「いや、俺の分も買い出ししたら荷物が多くなっちゃうかもしれない。車で行けるならそっちの方が便利だよ」 「……それもそうか。じゃあお願いします」  確かに、男二人分の食料を数日分買い足したら結構な量になる。せっかくだし、アシになってもらおう。  早速夏樹は、市川が運転するワゴン車に乗り込んだ。いつも利用しているスーパーに行くのかと思いきや、市川が連れて行ってくれたのはお得で有名の業務用スーパーだった。 「夏樹、食べたいもの見つけたら好きなだけ入れていいぞー。俺も好きなもん入れてくからさ」  と、市川が巨大な買い物カートを押しながら歩いていく。冷凍ピザやステーキ用の肉を次から次ぎへと放り込んでいるので、心配になって夏樹は聞いた。 「……あの、先生。それ、全部先生が買うんですよね?」 「当然じゃないか。俺がいる間は夏樹に財布出させないぜ?」 「ならいいですけど……ちゃんと冷蔵庫に入りきる分に納めてくださいよ?」 「平気だって。あのすっからかんの冷蔵庫だったら、何買っても入るからさ」  ……軽く馬鹿にされているような気がするのだが。 「さ~て、今日の晩メシ何にするかな~♪」  上機嫌に鼻歌を歌っている市川。なんだか京都の実家を抜け出して来たとは思えないくらい呑気な態度だ。 (……というか、本当に実家は大丈夫なのかな)  夏樹には、次期家元の勤めがどんなものなのかわからない。それでも、実家を放置して約三週間もこちらに来ていいとは思えなかった。  市川はあっけらかんとしているけれど、いざ実家に戻った時に「次期家元の勤めを放棄した」なんて言われて、ますます肩身が狭くなってしまったら気の毒である。 (……それに、祐介さんのことも気になるし)  市川の腹違いの弟・真田祐介。今の家元の嫡出子だ。  もともと次期家元は祐介と決まっていたのだが、市川とツーリングに出掛けた際、事故で脚を悪くしてしまい、次期家元ではなくなってしまったらしい。  本人は杖をつきながらも元気に生活しているし、次期家元でなくなったことを気にも留めていないようだったが……。

ともだちにシェアしよう!