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体育祭編『第17話』

「おっ! このケーキすごいカラフル! なあ、ひとつ買って行かない?」 「…………」 「おい、夏樹?」 「えっ? あ、はい……なんですか?」 「どうしたんだ? 何か考え事か?」 「いや……考え事というか……」 「なんだよ? 気になることがあるなら言ってみ?」 「はあ……じゃあ……」  何と言ったものか迷った挙げ句、夏樹は結局ストレートな質問をぶつけた。回りくどいことを言うより真っ直ぐな気持ちをぶつけた方が、この変態教師には有効だと思った。 「先生……本当に実家、出てきちゃってよかったんですか?」 「ん? なんでそんなこと聞くんだ?」 「だって、次期家元ってそれなりに忙しいんでしょ? フリーターじゃあるまいし……」 「いやぁ、フリーターみたいなもんだよ。広義的に言えば自営業に近いしさ」 「……伝統文化の次期家元を、フリーターとか言わないでくださいよ……」 「でも実際そうなんだよな。他の流派はどうか知らないけど、うちは今の家元の力がかなり強いからさ。親父の目が黒いうちは、俺の存在なんてほとんどないようなもんなんだ」 「……そうなんですか? いろいろ厳しそうな家だなと思ったんですけど」 「しきたりはあるけど、それさえクリアしちゃえば後は結構フリーダムよ。俺、大学卒業してすぐ東京の学校に体育教師として就職したけど……それだって、次期家元との両立が可能だったから許されたんだからな? そうじゃなかったら、大学卒業と同時に実家に戻って家元を手伝ってるさ」 「はあ、そうなんですか……」  市川が次期家元に決まったのは、確か十九歳の時。にもかかわらず東京での就職が認められたということは、「体育教師」との両立ができる立場だったということだ。  そのことを踏まえれば、三週間ほど実家を離れることくらい、なんでもないことなのかもしれない。 「まあ、そういうわけだから家のことは気にするな。俺としては、次期家元の務めより夏樹とイチャイチャすることの方がずっと重要だから」 「……またそんなこと言ってる」  嬉しくなったのを悟られたくなくて、夏樹はわざと別のことを聞いた。

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