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体育祭編『第19話』
たんまりと食材を買い込み、夏樹は市川と一緒に自宅アパートに戻った。
「……先生、さすがにこれは買いすぎじゃないですか?」
市川の両手には大きく膨らんだビニール袋が四つ。夏樹の手にもそれぞれビニール袋が下げられている。
いつも使っているテーブルにドサッと袋を置き、夏樹は買った食材を整理し始めた。
「冷凍ピザ……ステーキ肉……ケーキまで買っちゃって。食べきれなかったらもったいないですよ」
「大丈夫だって。全部食べきってやるからさ」
「……ホントですか?」
「ホントだって。俺の食欲をナメるなよ?」
「はあ、そうですか……」
市川が全部食べきってくれるなら食品ロスはなくなるかもしれないが、そもそも冷蔵庫に食材が入りきるのかというのも問題である。
(ていうか先生、教師時代と同じレベルで食事していいのかな)
体育教師だった頃は毎日のように身体を動かしていたせいか、結構な量の食事をしていたように思う。
だが今は何か副業を持っているわけでもなく、次期家元としての勤めしか果たしていないはずだ。体育教師だった頃と比べて、運動量は激減していると思われる。
そんな生活なのに、今までと同じように食べまくっていたら……。
(先生、そのうちお相撲さんみたいになるんじゃないかな)
仮に市川が関取のようなぽっちゃり体型になったとしても、夏樹は彼を嫌いにならない自信はある……が、いざ組み敷かれたら圧死しそうである。
もし太ってきたらダイエットさせよう……と思いつつ、夏樹は食材を冷蔵庫に放り込んだ。
「なあ、夏樹」
「っ……!」
いきなり背後から抱きしめられ、思わず身体を強張らせる。
嫌な予感にドキドキしていたら、案の定市川が耳元で囁いてきた。
「ちょっと小腹空かない?」
「えっ? それは、まあ……」
「だよな~! じゃあ夕飯前にちょっと腹ごしらえしよう! さっき買ってきたケーキがあるから、それ食べようぜ」
次の瞬間、ひょいと身体を持ち上げられ、テーブルの上に仰向けに押さえつけられてしまう。
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