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体育祭編『第30話』
「夏樹、フライパン焦げてるぞ」
「……えっ? あっ!」
慌ててガスコンロに目を向ける。案の定、卵焼き用の四角いフライパンからは、微妙に焦げ臭い白い煙がもくもく立ち上っていた。
「わあぁあ! ストーップ!」
急いで火を消し、フライパンをコンロから下ろす。濡れ布巾を敷いた作業台にフライパンを置いたら、ジュッ……という小気味のいい音がした。
恐る恐る引っ付いている卵を剥がしたのだが、最早卵焼きなのか何なのかわからないような黒焦げの物体が出来上がっていた。
「あああもう! なんで上手くいかないんだー!」
市川と料理の特訓を始めて、数日が経過している。卵焼きから練習しよう……ということで、専用の四角いフライパンを購入したものの、未だに一度も成功したことがなかった。出来上がるのは黒焦げか生焼けかのどちらかで、理想としているふわふわの卵焼きには程遠い。
「あー、これはまた豪快に焦がしたなぁ」
側で見ていた市川が苦笑したので、夏樹はムッと口を尖らせた。
「笑わないでくださいよ。俺だって真面目に練習してるんです」
「ごめんごめん。あまりにも盛大に焦がしてくれるから、つい……」
「つい、じゃないでしょ。だいたい、このフライパンおかしいです。先生の言った通りに作ってるのに、全然言う事聞いてくれないし」
「まあそうスネるなよ。アドバイスやるからさ」
と言って市川は、焦がしたフライパンを流し台で洗い始めた。
「夏樹、料理初心者なのに一度に多くのことやろうとしてないか?」
「え?」
「卵焼き作っている間にサラダ作っちゃおう……とか、トーストが出来上がる前にコーヒー淹れちゃおう……とか」
「それは……でも、料理ってそういうものじゃないんですか?」
「効率よく料理する時は隙間時間を有効に使うけど、初心者がいきなりそんなことしたら失敗するだけだよ。まずはひとつの料理に集中すること。これでだいぶ変わってくると思うぜ?」
「はあ、でも……」
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