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体育祭編『第31話』

 ひとつの作業に集中した方がいい、というのはわかる。  でも朝の忙しい時間に、お弁当作って朝食も用意して洗濯機を回して、顔洗って歯を磨いて……なんてやっていたら、ひとつの作業に集中なんてできないのではないか。黙ってじーっと卵焼きを見張っている時間がもったいない、と思ってしまう。 「……おい夏樹。今、そんなことする時間ないと思っただろ」 「だって、朝は何かと忙しいじゃないですか」 「それさ、主婦の間でもよく言われることだけど、『忙しい』とか『時間がない』とか思うのは、ぶっちゃけ起きる時間が遅すぎるだけだと思うぞ? 八時に家を出なきゃいけないのに七時半とかに起きてたら、そりゃあ時間なくなるに決まってるじゃないか。出掛ける時間の二時間前くらいに起きてれば、かなりの余裕ができるはずだぜ?」 「二時間前って……六時に起きろって言うんですか?」  高校生くらいの若者なんて大抵そうだろうが、朝早く起きるのがものすごく苦手だったりする。  夏樹も例外ではなく、朝はなるべく遅くまで寝ていたいタイプだ。そんな早起きをしたら、一日の睡眠時間が足りなくなってしまう。  けれど市川は、ごく当たり前のような顔をしてこう言った。 「六時起きなんてそこまで大したことじゃないよ。最初はキツいかもしれないけど、体内時計が出来上がったら余裕だって。それに、俺の実家では家人は大抵五時起きだぜ?」 「ええっ!? 五時!? 嘘でしょ!?」 「嘘じゃないよ。全員分の朝食用意して、食事をする部屋を掃除して、その日のお稽古の下準備もして……と、やることはいっぱいあるからな。ついでだから、今のうちに早寝早起きにも慣れといた方がいいんじゃないか?」 「…………」  ……なんだか一気に自信がなくなってきた。料理も苦手、早起きも苦手な自分が、果たして市川の実家で働けるようになるのだろうか。

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