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体育祭編『第33話』
「へー? それで、毎日お弁当作りの特訓してるわけね」
その日の昼休み、夏樹は教室で翔太と弁当を食べていた。
翔太は市川とつき合っていることを知っているため、今家に市川がいることも全部話してある。
実際、弁当箱を開けた時も、
「おー! これが今日の市川先生のお弁当だね! 早速参考に一枚……」
と、スマホで写真を撮っていた。市川が言っていた通り、見た目は少し崩れ気味になっていた。
「それにしてもなっちゃん、ホントに愛されてるね~。毎日お弁当作ってもらえるし、しかも気を遣ってちょっと下手くそっぽく作ってある」
「……まあな。正直、ここまでしてくれなくてもいいのに……と思うことはあるよ」
「何それ? もしかして愛情が重いとか?」
「いや、そうじゃないんだけど。ただ、先生が俺にやってくれることに比べて、俺は先生に何もできてないなあ……って思うことがあって。料理も下手だし、運動も嫌いだし」
「別にいいんじゃない? なっちゃんはいつも先生の変態プレイにつき合ってあげてるんでしょ?」
「……まあ、そうなんだけどね。でもそれって今のうちだけじゃない? 俺がもっと年取ったら――それこそ三十歳くらいになったら、さすがにもう変態プレイはやらないんじゃないかな……」
それは漠然とした将来への不安であった。
今は夏樹も若いから市川も調子に乗っていろんなプレイを仕掛けてくるけど、十年後、二十年後も変わらず身体を繋げているとは思えない。若さは永遠のものではないように、いつか必ず肉体的な衰えがやってくる。
そうなったら、自分はもう用済みになってしまうのではないか。今のように何にもできない少年のままでは、いずれ市川に愛想を尽かされてしまう気がする。
だから一生懸命料理を練習して、早起きにも慣れて、伝統文化について少しずつ勉強しているところなのだが、これがなかなか思うように進まない。相変わらず料理は下手くそだし、目覚まし時計をセットしても布団から出られないのが現状だ。
果たして自分は、本当に市川にふさわしいパートナーになれるのだろうか……。
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