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体育祭編『第36話』

「ま、それはそれだ。夏樹が俺の実家で働くのは当分先だから、そこまで心配しなくていいよ。いざとなったら、やり方はいくらでもあるしな」  と、市川は夏樹が作った卵焼きを弁当箱に詰め込んだ。卵焼き以外のおかず――唐揚げやポテトサラダ等は、市川が作ったものだったが。 「ほらよ。今日は弁当箱忘れるなよ?」 「あ……はい、ありがとうございます」  綺麗に包まれた弁当箱を受け取る。 (まあ、そうだよな。今からあれこれ考えててもしょうがないし)  漠然とした不安はあるものの、今すぐに状況が変わるわけではない。今年は高校三年生だから、受験勉強もしなければならないのだ。これからは受験勉強をメインにして、時々料理の練習をしてみよう。 「ところで先生は、今日は何時ごろに体育祭見に来るんですか?」 「ん? 開会式からいるつもりだけど。もちろん夏樹の勇姿を見ることが目的だけど、先生方にも挨拶しておきたいしな」 「そうですか。わかってると思いますけど、大声で応援するのはやめてくださいね」 「はいはい、わかってるって。校庭のド真ん中で夏樹への愛を叫んだりはしないよ」  ……本当にわかっているのだろうか。 「じゃ、俺は家の片付けをしてから行くからな。夏樹は遅刻しないようにしろよ?」 「はいはい……。じゃあ、行ってきます」  体操着や運動靴が入ったリュックを下げ、夏樹は家を出た。  通学用のバスに揺られながら、ふと思う。 (そういや先生……体育祭が終わったら実家に帰っちゃうんだよな……)  ということは明日……早くて今日の夜にはお別れになってしまう。  また夏休みになったら会えるはずだけど、しばらく離ればなれになると思うと、やはり少し寂しかった。今回は市川がこちらに来てくれたが、東京と京都では気軽に会いに行ける距離ではない。 (どこでもドアがあったらいいのに……)  そんなしょーもないことを考えつつ、夏樹はしばらくバスに揺られていた。

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