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体育祭編『第37話』

 体育祭が始まった。  夏樹は自分の席でボーッとグラウンドを眺めていた。今は部活動対抗リレーの真っ最中で、応援している人も熱が入っている。 (はあ……やっぱり退屈だな)  応援している部活もなく、参加している種目も少ない夏樹にとっては、この待機時間はものすごい手持ち無沙汰だった。これだったら、文庫本の一冊くらい持ち出してきた方がよかったかもしれない。いや、今からでも図書室に行って何か本を借りて来ようか。 (先生も、なんだかんだで挨拶回りに忙しいみたいだしね……)  開会式に間に合うように来てくれた市川だったが、 「ごめん、夏樹。なんか早速教頭先生に捕まっちゃって。これから挨拶してくるよ」 「……あ、そうですか。別に俺のことはいいんで、ごゆっくり」 「ホントにごめんな~。帰ったら美味しい物いっぱい食べさせてやるからさ」  と言って、夏樹の元を離れてしまったのだ。  話し相手がいないのでは、自分で時間を潰すしかない。  やっぱり図書室に行って来よう……と思い、夏樹は席を立った。グラウンドが賑わっているせいか、校舎内はほとんど誰もいなくて静かだった。 「おい、笹野」  不意に後ろから声をかけられ、夏樹はびっくりして振り返った。  教師に咎められるのかと思ったら、そこにいたのは意外な人物だった。 「か、河口先輩!? なんでここに!?」 「ここは俺の母校だぞ。体育祭を見に来てもおかしくねぇだろ」 「いや、でも……」  文化祭ですらこっそりサボッていた人が、わざわざ母校の体育祭を見学に来たとは思えない。  夏樹は河口と距離を取り、身構えながら聞いた。 「……何しに来たんですか?」 「そんなに警戒すんなよ。たまたまお前を見かけたから声かけただけだ」 「別に声をかけてもらわなくてもよかったんですけど」 「相変わらず生意気だねぇ。そういうの見ると、無理矢理にでも喘がせたくなる」  更に一歩後ろに下がる。こんな時に河口に犯されるなんて冗談じゃなかった。  市川以外の男を受け入れるなんて、もう二度と御免だ。

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