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初めてのお稽古編『第1話』

 ――笹野夏樹(ささのなつき)、高校三年生の夏。  蝉の鳴き声が聞こえる。  外はうだるような暑さで、気温はおそらく三十五度を超えているだろう。  四畳半の畳の部屋はエアコンが効いて涼しいはずだが、先程から変な脂汗が止まらない。ふくらはぎから下の感覚がなくなり、痛いのか重いのか痺れているのかすらわからなくなってきた。  この正座状態のまま耐えるのも、そろそろ限界が来ている。 「……夏樹? おい、夏樹」 「えっ!? は、はい!」 「どうしたんだ、ボーッとして? ほら、お茶飲んでいいぞ」 「は、はあ……」  市川の近くに置かれているお茶碗。四畳半の部屋の場合は、自分でにじって取りに行かなければならない。  仕方なく夏樹は腰を浮かせ、両手を両膝の横について移動しようとした。  ところが……。 「ぎゃあ!」  バランスを崩し、前のめりに転倒してしまった。なんとか立ち上がろうとしたが、どんなに力を入れても足首が曲がらず、起き上がることができない。 「せ、先生……助けて……」 「ハハハ、これまた派手に転んだなあ」  涼しい顔でサッと立ち上がり、こちらに寄ってくる変態教師・市川慶喜(いちかわよしのぶ)。  彼に抱き起こされながら、夏樹は思い通りにならない身体を恨めしく思った。 ***  夏休みに入ってすぐのこと。 「夏樹! 京都行こうぜ~!」  唐突に訪問してきた市川に、これまた唐突にそんなことを言われた。  ちなみに、彼が夏樹の家に予告なしで突撃してきたのは「休みに入ったのに、全然遊んでくれないからさ~」という呆れた理由だった。 「京都? 何しに行くんですか?」 「そりゃあイチャイチャしに行くに決まってるじゃないか。あ、もちろん観光してもいいけど」 「結構です。俺、受験生ですよ? 遊びに行ってる場合じゃありません」 「大丈夫だって、向こうでも勉強はできるから。それに夏樹、この間の模試で第一志望A判定だって言ってたよな?」 「だからって、勉強サボってたら不合格になっちゃうでしょ。先生は、俺が浪人生になってもいいんですか?」 「全然かまわないぞー。俺は夏樹が高卒でもプー太郎でも、一生面倒見ていく自信がある!」

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