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初めてのお稽古編『第2話』
「そういう問題じゃない! とにかく、俺は現役で合格を目指してるんですから、邪魔しないでくださいね」
「お? それって現役で合格して早く俺とラブラブしたいってこと? さすが夏樹、いい心掛けだな!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫で回して来るので、バシッとその手を払い落とす。
だが市川は全く気にすることなく、再度誘ってきた。
「まあそれはそれとして、明日から京都行こうぜ! 途中、いろいろドライブしながらさ」
「人の話聞いてました!? さっき行かないって言ったでしょ! 先生といたら絶対勉強にならないし」
「心配するなって、夏樹の勉強は邪魔しないから。俺だって稽古あるしな」
スポーツしかできない変態教師に見えるが、これでも市川は茶道の次期家元である(実家は京都)。今のところ弟子はとっていないみたいだが、それでもお盆や正月明け等は行事で忙しいそうだ。
夏樹は素っ気なく手を振った。
「だったら俺にかまってる時間もないですよね? というわけで、さっさと実家に帰ってください」
「えー? そんなつれないこと言うなよー。せっかく夏樹のために稽古の道具用意したのに」
「え? それ、どういうことですか?」
「夏樹、前に『お茶やってみたい』って言ってただろ? 俺、弟子はとってないけど、夏樹にだったら教えてあげてもいいなと思って。せっかく夏休みに入ったし、あっちでお茶の稽古やってみないか?」
「いや、でも……何も今じゃなくてもいいんじゃ」
「いんや、夏の点前 と冬の点前は全然勝手が違うんだよ。そもそも使う道具からして全く違うんだ。だから今用意した道具は今しか使えないんだよな」
「そ、そうなんですか……」
「そうなんだよ。だから一緒に京都行こうぜ? 必要経費は俺が負担してやるからさ。もちろん夏樹の勉強の邪魔はしない。約束する」
「…………」
「……まあでも、夏樹がどうしても嫌だって言うなら諦めるけどさ。こんなの無理強いしても意味ないし。どうする?」
「どうって……」
正面から見つめられ、夏樹は思わずたじろいだ。こういうストレートな思いをぶつけられると弱い。つい絆されて、市川の要求に応えてしまう。
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