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初めてのお稽古編『第4話』
「夏樹、ここのラーメン美味いらしいぞ。せっかくだから食って行こうぜ」
「いいですけど、あまりこってりしてないやつにしてくださいよ」
「わかったわかった。じゃあ夏樹は冷たいつけ麺にしとこう」
それぞれのメニューを頼み(もちろん市川の奢りで)、空いている席に着いて向かい合って食事をした。
夏樹のラーメンはさっぱりした冷やしつけ麺だったのに対し、市川は大盛りのとんこつラーメンを注文していた。このクソ暑いのによくそんなもの食べられるな……とちょっと呆れてしまった。
「そういや夏樹、箸の持ち方綺麗だよな」
いきなりそんなことを言われたので、思わず摘まんでいた鳴門 をポトッと落としてしまう。
「はあ、ありがとうございます。でも、それがどうかしたんですか?」
「いやね、箸を持つのが下手くそだと稽古の時に困るかもしれないからさ」
「……えっ? お稽古に箸を使うことがあるんですか?」
「そりゃあな。お客さんになればお菓子を取り分けるのに使うし、炭点前 の時は金属製の箸使うしな」
「炭点前?」
「炉 や風炉 に炭をさす稽古だよ。お茶点てる前に、釜にお湯を沸かさなきゃいけないだろ? そのための稽古なんだけどさ。炭点前の時に箸使うのが下手くそだと、箸で炭を掴めないんだ」
「へ、へぇ……そうなんですか……」
なんだかよくわからないが、思った以上にお茶の世界は奥が深そうだ。
(お茶って、お茶を点 てるだけじゃないのか……)
炭をさすお稽古まであるなんて、さすがに初耳である。茶筅 でお茶をシャカシャカするイメージしか持ってなかった。
「ちなみに、正月には『初釜 』っていうイベントもあるからな。懐石料理が出てくるから、それもそのうち稽古つけてやるよ」
「えっ!? 懐石料理のお稽古もあるんですか!?」
「あるよ。茶道って意外と勉強することが多いんだ。掛け軸の稽古もあるし、もちろん床の間に飾る花の稽古もある。他にも勉強することはいっぱいあるんだよなぁ……。俺、勉強苦手だから結構大変なんだわ」
「…………」
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