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初めてのお稽古編『第9話』
「これが例の梅ジュースだ。毎年うちで作ってるんだぜ。夏にはピッタリだから飲んでみ?」
「さも自分で作ってるかのように言わないでね、健介。作ってるのは毎年僕だよ」
「だから俺も『作ろうか』って言ってるじゃん。でも『健介が作るとすっぱくなる』って文句言うだろ」
「でも本当にすっぱいからね。あれじゃ普通の人の口には合わない。……あ、夏樹くん大丈夫だよ。それは僕が作ったやつだから甘くて美味しいはずだ」
「ホントですか? じゃあいただきます」
勧められるままに一口飲んでみたら、甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。
身体に梅がぐんぐん沁み込んでいき、一気に生き返ったような心地になる。水分不足になりがちな夏には本当にピッタリだ。
「美味しい! これ、どうやって作ってるんですか? 梅を漬けてるんですか?」
「うん。凍らせた梅を砂糖と一緒に瓶に詰めて、それを野菜室に放り込んでおくんだ」
「へえ……そうなんですか。それなら俺にも作れるかも」
「夏樹、料理苦手だもんなー。卵焼きはなんとか作れるようになったけど、他は……ぶべっ!」
「うるさいな。俺だって毎日頑張ってますよ」
ムカついて市川をぶん殴ったら、祐介が軽やかに笑った。
「相変わらず仲良しだね、お二人さん。ちょっと羨ましいかも」
「だろう? 俺と夏樹はどこにいてもお互いラブラブ……ぐえっ!」
これ見よがしに絡んで来ようとするので、再び顔面を殴り返す。
「少しは自重してくださいよ! ……祐介さんも大変ですね。こんな変態がお兄さんで」
「いや、僕はもう慣れてるから。むしろ夏樹くんがすごいと思うよ。健介、外面はいいけど結構な変態だから、大抵の人はついていけなくてお別れしちゃうんだよね」
「あー、すごくわかります。先生の変態っぷりは本当に異常ですからね、異常!」
「僕もそう思う。ところで夏樹くん、今回は観光で来たの?」
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