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初めてのお稽古編『第10話』

「いえ、先生に強引に車に乗せられたんです。俺、受験生だって言ったのに、何のかんのと押し切られてしまって」 「夏樹は勉強できるから大丈夫だよ。それより稽古だ。せっかく道具揃えたんだから、やらないのはもったいない」 「おや。夏樹くんは健介に稽古つけてもらう予定だったの?」 「ええ、まあ。ちょっとドキドキしてますけど」  そう答えたら、祐介は嬉しそうに笑った。 「それはよかった。健介もやっと弟子をとる気になったんだね。安心したよ」 「そんなの祐介が気にすることじゃないじゃん。弟子の有無は個人の自由……ぶふぉ!」  口を挟んできた市川を叩いて黙らせ、夏樹は聞いた。 「やっぱり弟子ってとらないといけないものなんですか?」 「いけないわけじゃないけど、次期家元の弟子が0人なんて聞いたことないね。やっぱり何人かは面倒を見るものじゃないのかな」 「そうなんですか……」 「でも、そういうことならちょうどいい」  と、祐介が杖をとった。 「もしよかったら、今からお稽古しない? 道具もまだ片づけられてないだろうし、炭も残ってる。薄茶くらいだったらやれるんじゃないかな」 「えっ……? いいんですか?」 「もちろん。いいよね、健介?」 「あー……でも、ここでは稽古する予定じゃなかったから……」 「? じゃあどこで稽古するつもりだったの? ここなら道具も着物もお菓子も全部揃ってるよ?」 「いや、まあそうなんだけどさ……」  歯切れの悪い返事をする市川。どうもお屋敷でお稽古するのに抵抗があるみたいだ。 (もしかして、二人きりでお稽古したかったのかな?)  誰にも邪魔されない場所で、二人きりでお稽古。茶室というのは基本密室だし、そうなるとお決まりのようにいかがわしい方向に流れて行ってしまう可能性がある。  せっかくお稽古するのに、またイチャイチャで終わってしまっては意味がない。  そう思い、夏樹は市川の代わりに快諾してみせた。

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