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初めてのお稽古編『第12話』

「ま、いいや。このまま退散するのもアレだし、ちょっとだけ稽古していくか。本番の前哨戦みたいな感じで」 「え? 前哨戦?」 「ほら、行くぞ」  市川がサッと席を立ち、部屋を出る。慌てて夏樹もそれに続いた。  廊下を歩き、とある畳の部屋に入る。そこには着物が入っているであろう桐ダンスと、着物ハンガーで陰干しされている着物が数着並んでいた。どうやらここは、和服に着替えるための和室みたいだ。 「夏樹、着物着るのは初めてだよな?」 「あ、はい……。浴衣ならありますけど」 「ああ、浴衣は去年着たよな。あれもよく似合ってたぜ」 「……って、また変な浴衣着せるつもりじゃないでしょうね?」 「まさか。お茶の稽古に浴衣はNGだよ。弟子にはちゃんと稽古用の着物ってのがある。汚れても丸洗い可能なやつな」 「そうなんですか……」 「じゃ、これに着替えよう。教えてやるから服脱いでくれ。下着までちゃんと脱げよ?」 「えっ? 下着もダメなんですか?」 「そりゃそうだよ。下着を穿かないのが着物の本当の作法だからな」 「は、はあ……」  市川が桐ダンスから稽古用の着物を出してくれる。青緑一色の爽やかな色合いで、暑い夏でも一層涼しげに見えた。  仕方なく夏樹は下着まで脱ぎ去り、差し出された裾除(すそよ)け、肌着、襦袢(じゅばん)……と、言われた通り身につけていった。 「ああ、襦袢の襟はもう少し合わせた方がいいぞ。着崩すのも粋だけど、稽古の時はちゃんとしておいた方が喜ばれる」 「あ、はい……」 「それと、帯は腰位置で締めるんだ。女性は胸の下で締めるけど、男性はあまり上だとみっともないからな」 「はい……わかりました」  予想以上にしっかりと教えてくれる市川。  着付けのお稽古になったら絶対に手を出してくると思っていただけに、夏樹としてはちょっと拍子抜けだった。いや、決して手を出して欲しかったわけではないのだが、なんだか調子が狂ってしまう。 (先生、やっぱり機嫌悪い……?)

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