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初めてのお稽古編『第13話』

 姿見の前で帯を締めながら、チラチラ市川の様子を窺う。すると、着替え終わっていた市川と目が合った。 「どうした? 何かわからないところあったか?」 「あ、ええと……帯、こんな感じで大丈夫でしょうか?」 「そこじゃちょっと高いかな。腹で巻いたら苦しいぞ?」 「え……。いや、ここが腰なんですけど」 「あ、そうだった。夏樹、意外と腰位置高いんだった、ハハハ」 「……何言ってるんですか。いつも裸見まくってるくせに」 「そうだけど、着物着てると相手のスタイルがわからなくなるんだよなー。ほら、着物って細かいサイズがないじゃん? モデルが着てても寸胴に見えるし」 「それはそうですけど」 「ま、夏樹はそこらのモデルよりずっと可愛いけどな。セーラー水着も着こなせるし、女性用の浴衣もバッチリだし。可愛い子は何を着ても似合うってことた。いいよなー!」 「なんですか、その褒め方」  不本意だがちょっと笑ってしまった。やはり市川はこれくらい軽口を言っていた方が市川らしい。 「よし、じゃあ稽古場に行くか。やることやって、さっさとお暇しよう」 「はい」  着付け部屋を出て、二人はお稽古用の離れに向かった。屋敷の母屋(おもや)を出て庭を少し歩き、簡素な小屋に到着する。  そこは四畳半ほどの茶室だった。床の間に掛け軸や茶花が飾られており、ほんのりとした畳の匂いが心地よい。 (あ、ここ……前にも来たことある)  もっとも、その時はお稽古ではなく市川と二人きりで話をするためだったが。あの時は市川が勝手に実家に帰ってしまったから、夏樹もいろいろと苦労したのだ……。 「お、今日の棚は桑小卓(くわこじょく)か」  と、市川が釜の隣にセットされていた棚に目をやる。直方体の棚の上に茶器らしきものが置かれており、細い柱の間に柄杓(ひしゃく)が斜めに立てかけてあった。なかなか芸術的な立て方だ。

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