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初めてのお稽古編『第15話』

 ところが、お稽古が始まって約三十分後……。 (うう……動けない……)  正客(しょうきゃく)の位置に正座し、市川が点前をしているところをずっと凝視していた。……が、慣れない正座をしていたせいか、開始五分で足が痺れてきてしまったのだ。  それでも我慢してなんとか三十分耐えたものの、腰を浮かせてにじったら、派手に転倒してしまう始末。動きづらい着物を着ているせいもあり、立ち上がりたいのに立ち上がることもできなかった。 「だから無理すんなって言ったのにー」  と、笑いながらサッと立ち上がり、助け起こしてくれる市川。同じ時間正座していたのに、何故市川は平気で動いていられるんだろう。 「な、なんで先生は痺れてないんですか?」 「ん? そりゃあただの馴れだ。正座も続けていれば一時間くらい平気でできるようになる。ま、夏樹みたいな現代っ子は、最初は五分も座っていられないだろうけどな」 「そ、そんなぁ……」 「大丈夫だって。夏樹、努力家だから正座なんかすぐできるようになるよ。とりあえず、今日の稽古はここで終わりな」 「で、でもまだ俺……」 「最初から無理しない方がいいって。そんな状態じゃ集中もできないだろうし。今日はここでおしまい。な?」 「うう……はい……」  残念だが、自分が全く動けない状態ではこれ以上お稽古を続けるわけにもいかない。  まずは正座ができるようにならなくちゃ……と、内心で呟いた。それができないとお茶を飲むこともできない。道のりは長いが「こんなことで挫けるもんか!」と決意を新たにする。  俺は先生の一番弟子なんだ。絶対に、次期家元にふさわしい弟子になってみせるんだから!  すると市川がニヤリと笑みを浮かべ、 「じゃ、稽古も終わったし、この着物脱いじゃおうか」  襟の隙間から手を入れて来た。  思わず背筋がぞくりとなり、反射的にその手を掴んだ。

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