265 / 282
初めてのお稽古編『第24話』
「うん……実は、今までも健介に弟子入りしたいって人が来たことがあって。一応次期家元だから、そういう人がいてもおかしくないんだけどね。でも……」
「……もしかして、それを美和さんが断っていたんですか?」
「断るというか……『弟子入りするなら祐介の方にしなさい』って言ってたみたいで。それで健介も『ならもう弟子なんかとらねぇわ』って、公に弟子をとるのやめちゃったんだ」
「…………」
「だから、夏樹くんを弟子にするって聞いた時は嬉しかったんだけど……。また母が余計なことを言ったみたいだね。ごめん」
「あ、いえ! 祐介さんが悪いわけじゃないので……」
気にしないでください、と手を振ってみせる。
(というか、やっぱり祐介さんも困ってるんだな……)
あの美和という女性、祐介にとっても結構な毒親であるらしい。誰にとっても迷惑な行為をしているのに、それを自覚していないのが一番タチが悪いと思う。
これでは市川が実家を離れたくなるのも無理はない。
(理解不能だ……)
嫌いな相手を攻撃する人って、第三者からはドン引きされているのに気付かないんだろうか。自分の株をも一緒に下げているってわからないんだろうか。
わからないんだろうな……と思いつつ、夏樹は小さく首を振った。祐介さんはあんなにいい人なのに、なんで母親はああでこうなんだろう……と、内心で小言を吐く。
「すみません、変なこと聞いちゃって。ありがとうございました」
きちんと礼を言って、倉庫に向かおうとしたら、
「夏樹くん」
「えっ……?」
「健介とはちゃんと上手くやってる?」
「あ、ええ、まあ……はい」
「ホントに? 今は遠距離だけど倦怠期に入ってない?」
「大丈夫だと思います。先生、何かというとすぐ東京に来るし。連絡もマメなので、あまり遠距離って感じはしないです」
「そうか。健介の性癖は時々僕でも引いちゃうくらい突き抜けてるからね。夏樹くんに迷惑かかってるんじゃないかと心配だったけど……仲良くやれてるならよかったよ」
にこりと微笑み、祐介は続けた。
ともだちにシェアしよう!