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初めてのお稽古編『第26話』
「……で、捕まえてみたけど、どうすりゃいいんだ?」
男の一人が困惑したように話し出す。
「どうって……とりあえず、ちょっと痛めつけてやればいいんじゃないの?」
「ちょっとってどのくらいだよ? 顔に傷がつかない程度にボコしときゃいいのか?」
「適当に痛めつけて追い出せって言ってたけど……。ムチャ振りすぎないか、奥様」
「っ……!?」
奥様? 奥様って美和さんのことか? 祐介さんの母親の?
じゃあこれは美和さんの指示ってこと……!?
(なんで……!?)
俺がさっき口答えしたから? 祐介さんじゃなく市川に弟子入りすることを選んだから? そんな理由でこいつらをけしかけたのか!?
いくらなんでもひどい。ひどすぎる……!
「放してください! こんなことしたって、俺は先生の弟子を辞めるつもりはありませんからね!」
「いや、そこは辞めてもらわないと困るんだよな……。でないと、オレたちがここをクビになっちまう」
「この家では奥様に嫌われたら終わりなんだ。運が悪かったと思って諦めてくれ」
「おとなしくしてくれればこれ以上痛めつけたりしないからさ。証拠写真数枚撮ったら解放してやるから」
「っ……!」
カシャ、カシャ、とスマホのシャッターを切る音がする。目隠し状態で男性三人に押さえつけられていれば、痛めつけているようには見えるだろう。
(だけど、こんなことしても一時的なごまかしにしかならないじゃ……)
市川の弟子を辞めるつもりはない。でもこんなことをされたらいずれは辞めざるを得なくなる。市川の弟子で居続ける限り、屋敷に出入りする機会も増えてくるからだ。
だからといって、お稽古を始めた初日で「やっぱり辞めます」とは言いづらい。次期家元にふさわしい一番弟子になると決めたばかりなのだ。さすがにたった数時間でその決意をなかったことにはしたくない。
それなら美和にバレないよう、こっそり稽古をつけてもらえばいいのでは……とも思うが、果たしてそれでどこまでごまかせるかは不明である。
どうしよう……一体どうすれば……。
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