その時だった。 「おい！　そこで何してんだ！？」 　倉庫の扉がガラッと開き、市川の怒声が聞こえてきた。 「！？　きみ達は……」 　祐介が息を呑む音も聞こえる。 「あ、いや、違うんスよ、これには深いワケが……」 　夏樹を押さえていた男たちは、慌てた様子でこちらから離れ、しどろもどろになりながら説明しようとした。 　だが市川はバキバキ指を鳴らしながら、 「何がワケだ！　ふざけんな！」 　と、男たちに殴りかかっていく。 「待って先生！　殴るのは待って！」 　慌てて市川を止め、なんとか拳を下ろさせたものの、彼の怒りは治まらなかった。 「なんで止めるんだよ？　こいつら、お前に変なことしようとしてたんだろ？」 「してません！　本当に何もされてないし、怪我もしてません！　だから殴るのは止めてください！　こういうのは手を出した方が負けになります！」 「でもな……」 「一度手を出そうとして大変なことになったの、忘れたんですか？　俺はもうあんな面倒臭いこと二度と御免ですからね！　手を出すより、ちゃんと話を聞いてください！」 「いや、まあそうなんだけどさ……」 　未だに怒りを燻らせている市川。冷静になるには少し時間がかかりそうだ。 　代わりに祐介が男三人を問い詰めた。三人を正座させ、上から淡々と尋ねる。 「……で？　きみ達は一体何をしていたの？」 「いや、その……ちょっと、ある人に頼まれ事をされまして……」 「次期家元が弟子を取り始めたらしいんだけど、その弟子がうちの弟子としてふさわしくないから、追い出す方向に持って行ってくれと……」 「だから……その、少し痛めつけてやれば出て行くかと思いまして……」 「それで、こんなふざけたことをしてたわけか……」 　祐介が見せつけるように溜息をつく。 「……で？　誰に指示されたの？」 「いえ、それは……」 　言い淀んでいる男たち。彼らもさすがに「あなたの母親です」とは言いにくいのだろう。